dStyleをご覧のみなさんこんにちは。
はじめまして、福岡市で口腔外科治療に特化した歯科医院、いりえ歯科口腔外科クリニックに勤務して5年目を迎える歯科衛生士、長部蘭子と申します。
当クリニックに勤務する前は、一般歯科にて十数年、治療介助や歯周治療、特別老後施設への口腔ケアなど、さまざまな歯科衛生士業務に携わってきました。
これから数回にわたって、歯科衛生士としての口腔外科診療への関わり方や働き方についてご紹介していきたいと思います。
今回は、小手術における、歯科衛生士の関わり方や必要な知識についてお伝えしたいと思います。
私がお伝えする内容が、みなさんにとって口腔外科診療に興味をもつきっかけになれば嬉しく思います。
小手術の過半数を占める「智歯抜歯」
みなさんは、小手術と聞いて何を思い浮かべますか?
抜歯や粘膜嚢胞など、さまざまなものがあるかと思います。
私の勤め先では、埋伏歯を含む抜歯を得意としていることもあり、「抜歯」が過半数を占めている状況です。
以下は、一ヶ月の小手術別処置件数の割合をグラフ化したものです。
この他にも、粘液嚢胞の摘出や骨隆起の形成術、インプラントの一次手術などを行っています。
今回は、私がもっとも多くアシスタントを行う「智歯抜歯」について取りあげたいと思います。
智歯の特徴
智歯(親知らず)とは「第3大臼歯」ともよばれ、全歯の中でいちばん最後に萌出する大臼歯のことを指します。
萌出時期としては20歳前後が多いものの、もちろん個人差があります。
多くの方は、「智歯=抜歯が必要」とイメージしますが、かならずしも抜歯が必要とは限りません。
一方で、炎症のある状態のまま放置しておくと、健康に関わる問題になることもあります。
たとえば、以下のような場合は抜歯を検討します。
- 清掃不良による歯肉炎症(智歯周囲炎)をくり返し、歯周病やう蝕の原因となる
- 歯の位置から頬粘膜を噛みやすく、口内炎の原因となる
- 生える方向が悪く、歯列不正の原因となる
智歯抜歯の手順
当クリニックでは、以下の流れで診療を行います。
- 診断
- 術前処置:痛みや炎症に対する処置
- インフォームドコンセント
- 抜歯
診断・術前処置
まず、歯科医師が診断を行います。その際の歯科衛生士の役割は、問診票をもとに、主訴や既往歴、現在の健康状態、アレルギーの有無を確認することです。
問診時には、「年齢や性別にかかわらず、全身疾患をもつ患者さんはたくさんいる」と認識することを心がけています。
現在の超高齢社会において、既往歴があり、薬を服用している方のほとんどは高齢者に多く感じられるかと思います。
しかしながら、若年者であっても、心療内科や婦人科などの疾患をもっている可能性は大いにあります。
また、外科手術は観血処置を伴うため、初診時の血圧測定は重要なスクリーニングの一つです。
これらの診断時に術前処置が必要と判断された患者さんには、一度炎症や痛みを取り除く処置を行います。
インフォームドコンセント
術前処置が行われた後は、インフォームドコンセントです。
歯科医師から患者さんの状況に合わせた説明の後、歯科衛生士からも以下のような説明を再度行います。
- 処置の所要時間
- 術後に起きうる症状(腫れや痛み、内出血など)とその対応
- 偶発症や合併症について(下顎管や副鼻腔、歯の位置により起きうる症状や局所麻酔の影響など)
抜歯の準備
説明が終わり、患者さんの同意が得られれば、抜歯処置へ移行します。
処置当日、歯科衛生士は器具や器材の準備からはじめます。滅菌状態で保管されている使用器具は、治療がスムーズに行えるよう使用順に並べます。
手術当日は緊張される患者さんが多いため、少しでもリラックスできるようなお声かけも行います。その際に、抜歯後に処方される抗生剤や鎮痛剤との併用に問題がないか、あらためて内服薬についての確認を行います。
そして、患者さんの不安につきものである「痛み」。この不安や痛みは、神経性ショックの原因にも関係することがあるため、表面麻酔や電動注射器を使用し、偶発症の発生を予防します。
その後、局所麻酔が十分に効くまでの間に口腔内清掃を行います。術前清掃は、口腔内細菌を減少させることから、感染予防につながります。
最後に、術後の過ごし方や腫れ、痛みに対する対応をお伝えします。
抜歯本番
さて、ここからが抜歯本番です。
抜歯後の腫れや痛みは、以下のように抜歯の状況によって異なります。
- 埋伏の有無
- 埋伏歯の場合、歯槽骨内 or 歯槽骨外
- 埋伏している歯牙の方向
- 智歯周囲炎など炎症の有無
- 患者の体調
また、抜歯後の影響として処置時間も関係します。
処置時間をいかに短縮できるかについては、歯科医師の技術だけでなく、アシスタントの役割もとても大きいです。
術式をしっかりと把握し、スムーズな器具の受け渡しを行うこと。
これはチェアタイムの短縮に、そして患者さんへの負担軽減にかならずつながります。
処置後は止血を確認した上、歯科医師より術中の状況を説明し、当日の処置は終了です。
後日、抜糸と消毒に来院された際、感覚異常などの症状や傷の状態を確認し、感染所見がなければ治療終了となります。
小手術における歯科衛生士の役割
今回は抜歯を例に、小手術の流れをご紹介しましたが、どの治療においても基本は同じだと感じています。
痛みや腫れといった、患者の主訴を解決することは、歯科医師の役目。
その中で、患者さんが安心安全に治療を受けるための補助を行うことは、歯科衛生士を含め歯科医療スタッフの大切な役割ではないでしょうか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
詳しい術式や使用器具は、クリニックや術者によって異なるため、簡素な内容となってしまいましたが、参考にしていただければ幸いです。
これからも口腔外科診療の現場で感じてきた、歯科衛生士の役割や情報をお伝えしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
歯科口腔外科クリニックで働く歯科衛生士事情
#01 一日の勤務スケジュール
#02 小手術のアシスタント