マイクロスコープを活用しよう!第2回 準備と使い方

こんにちは、増田梢です。

日本顕微鏡歯科学会認定歯科衛生士の資格を取得し、臨床のさまざまなシーンでマイクロスコープを活用しています。

私にとってマイクロスコープは、日々の臨床で歯科衛生士の楽しさ、大切さ、そして必要性を感じるツールのひとつです。

今回は、「マイクロスコープを使いたい!」と魅力を感じている歯科衛生士のみなさんへ、実際に臨床でマイクロスコープを使うための準備の手順や、使い方のポイントをお伝えしたいと思います

前回の記事はこちら

第1回 私がマイクロスコープを使う理由

マイクロスコープを使う準備を整えよう!

マイクロスコープを実際に活用するために、以下3つのポイントをおさえておきましょう。

  1. マイクロスコープの仕組みを知る
  2. 自分が扱えるように準備する
  3. 安全な治療と患者さんへの配慮

1. マイクロスコープの仕組みを知る

自分が取り扱う器具、機材、材料の使用法や特徴を知って使うのとそうでないのとでは、活用性や安全性が大きく違ってきます。

「拡大するツール」を想像してみてください。身近では虫眼鏡だったり、スマートフォンのズームを想像する方もいらっしゃるでしょう。前回お伝えしたように、マイクロスコープは「拡大し明るく見るもの」で、正式には「手術用実体顕微鏡」といいます。臨床で使用するために、その仕組み・使用法・各名称を知っておく必要があります。

次の写真は、「鏡筒」という顕微鏡の重要な部分です。各部の使用法を理解しておくことが、マイクロスコープを使いこなす上で大切なポイントとなります。

顕微鏡で重要な「鏡筒」(写真は筆者が使用しているOPMI pico with MORE interface)
顕微鏡で重要な「鏡筒」(写真は筆者が使用しているOPMI pico with MORE interface)

2. 自分が扱えるように準備する

マイクロスコープの仕組みをおさえたら、実際に臨床で扱うための準備をしましょう

視度・瞳孔間距離の調整

マイクロスコープは、両眼で立体的に対象物を捉えられるように作られています。両眼の視度(ピント)と瞳孔間距離は一人ひとり違うため、まずはこれらを調整し、自分にぴったり合わせるところからスタートします。

視度調整

人間の目は左右で視度が異なることが多いため、それを補正するために視度調整を行います。視度が合っていることで対象物を確実に認識できるため、視度調整は重要な作業です。

レンズを覗きながら、視度調整ダイヤルと鏡筒の位置を上下して調整します。目標となるものがぼやけず、きれいに見えるところ=「ピント」の合っているところを探します。これを片目ずつ複数回行い、平均値を自分の視度とします。

時が経つと視度が変わったり、日によっても異なることがあるため、正しい方法で定期的に調整することをおすすめします。

マイクロスコープの視度調整

瞳孔間距離の調整

瞳孔間距離とは、正面を見た時の右の瞳孔の中心と左の瞳孔の中心の距離です。左右の視度調整をしたら、両眼でレンズを覗き、左右の像がひとつになるところを探しましょう。遠くを見るイメージで覗き、レンズに目を近づけすぎないことがポイントです。

矢印の距離が瞳孔間距離
矢印の距離が瞳孔間距離

拡大視野のトレーニングをする

機材を調整したら、実際の臨床でマイクロスコープをスムーズに扱うためのトレーニングを行います。

歯科治療では、「Push」「Pull」「Rotation」の動きをよく使います。マイクロスコープを使用しながら、インスツルメントを持っていきたい場所へ当て、思い通りに動かす動作がスムーズにできるようになるまでトレーニングを重ねます。

実際に私が行ったトレーニング

はじめのうちは拡大視野に慣れるため、「1日1マイクロ」を目標に、毎日マイクロスコープを覗くようにしました。患者さんに使用する前は、口腔外で紙面や模型、ファントムでトレーニングした後に、スタッフの口腔内を借りてさらに訓練しました。

トレーニング中は、以下の項目を意識するようにします。

  • 視野の中の観察や操作
  • 視野の中から外、外から中への操作
  • 器具のピックアップリターンに慣れること
  • ピントの確認
  • 姿勢の確認

歯科衛生士はアシスタントなしで一人で治療を行うことがほとんどだと思います。治療中は両眼で接眼レンズを覗くため、視野が狭くなります

そのため、インスツルメントで口唇や粘膜を傷つけることのないように、ピックアップからリターンするトレーニングをしました。その時、接眼レンズから顔を離さずに、よそ見するような目線をし、口腔内に入るまでは直視をします。

インスツルメントを挿入する際は、よそ見するような目線で口腔内を直視する
インスツルメントを挿入する際は、よそ見するような目線で口腔内を直視する

また、自分がマイクロスコープで見ている像とモニターのピントが合っているか、常に確認をしながらトレーニングします。

正しくピントが合っている状態(左)とぼやけてしまっている状態(右)
正しくピントが合っている状態(左)とぼやけてしまっている状態(右)

他にも、「背筋は伸びているか」「脇は締まっているか」「スツールに深く座っているか」など、姿勢も意識して行うようにしていました。

正しい姿勢で操作することも重要なポイント
正しい姿勢で操作することも重要なポイント

3. 安全な治療と患者さんへの配慮

マイクロスコープを使用するにあたって、安全な治療と患者さんへの配慮は欠かせません。

安全な治療を考える

あなたなら安心して治療してもらえるんです

これまでに患者さんからもらった嬉しい言葉のひとつです。技術ももちろん大切ですが、安全に治療を行うことは患者さんの安心につながります。

患者さんは思いがけないような動きをすることがありますが、私たちはそれらを予測し、回避しなければなりません。その際、マイクロスコープの視野で治療をするということを念頭に置く必要があります。

また、術者の私にとっては当たり前でも、患者さんにとってはそうでないことがたくさんあります。そのため、患者さんに対する事前説明も大切です。
マイクロスコープを使用するときには、事前にできるだけ説明を行い、理解を得られるよう以下のことをお伝えしています。

  • お口の中を拡大して見るためにマイクロスコープという顕微鏡を使います
  • 目の前に大きな機械を持ってきます(実物をお見せして)
  • 急に起き上がるとぶつかってしまいます
  • 何か伝えたいことがあるときは左手で合図、または声が出せるようなら出して教えてください
  • ライトの光が強いので目はとじていてください

説明の際は、マイクロスコープを使用するメリットも同時にお伝えするようにしています。
拡大のメリットをお伝えしてから施術をすることで、「マイクロスコープを使いたくない」と患者さんにマイナスに捉えられたことはありません。

一方、慣れている患者さんにはしつこくなってしまうので、様子を見て「マイクロスコープを使いますね」と一言だけお伝えするようにしています。

治療中の患者さんの視点。正面はこのようになっている
治療中の患者さんの視点。正面はこのようになっている

患者さんを気にかける

拡大視野下では、少し患者さんが動いただけで、対象物が視野から外れてしまうことがあります。自分が治療を受ける立場になった時、時間が長くなると後頭部辺りに圧迫感を感じ、頭を動かしたくなりました。

同じ姿勢を継続するには、ストレスがないことがいちばんです。そのため、低反発枕による頭位の固定や、手元足元に力が入っていないか目を向けたり、姿勢や開口の状態についてもできるだけ配慮します。

さらに、患者さんから伝えてもらうだけではなく、こちらからも苦しくないか適宜声をかけるなど、常に体の状態を確認するようにしています。

目元は保護のため、タオルやゴーグルを使用する
目元は保護のため、タオルやゴーグルを使用する

医療従事者としての想い

今回はマイクロスコープの準備や使い方をメインにお伝えしましたが、マイクロスコープの使用有無にかかわらず、医療従事者として「安全な治療」を行うことはとても大切なことです。

患者さんへの配慮を忘れずに、安心して治療を受けてもらえるよう心がけていきたいですね。

マイクロスコープを活用しよう!

第1回 私がマイクロスコープを使う理由
第2回 準備と使い方