感染管理アドバイザーの視点から 第2回 口腔衛生指導の歯ブラシはどうしていますか?

こんにちは。L.clare(ラ・クレア)の高野と申します。

現在は歯科衛生士として歯科医院に勤務しながら、感染管理アドバイザーとしてセミナー講師や院内研修のお仕事をしています。

院内研修では、新規開業時の器具機材の準備や、消毒滅菌の正しい方法をお伝えしたり、昔からのやり方を改善したいなどといった、クリニックにおける感染管理の問題点を解決するお手伝いをしています。

この度、感染管理のことをメインにゆるりと連載をさせていただくことになりましたので、どうぞよろしくお願いいたします。

第2回目は、口腔衛生指導で使用する歯ブラシについてです。

歯ブラシにガス滅菌を行う様子
歯ブラシにガス滅菌を行う様子

私が感染管理アドバイザーとして、さまざまなクリニックにお伺いすると、必ずといって良いほど、多くの方から歯磨き指導で使用する歯ブラシについて質問をお受けします。

口腔衛生指導の時の歯ブラシは、どんなものを選んだら良いのですか?
歯ブラシはどうやって消毒したら良いのだろう?
もともと、こういう風にやっていたからそのまま続けているけど、本当にこのやり方で合っているのかしら?
そもそも歯ブラシって、消毒してきれいになっているの?

このように、疑問に思う方がとても多いことがわかりますし、同じクリニックであっても、スタッフさんによって見解が違ったりします。歯ブラシの運用方法も、クリニックによってさまざまなので、正解を見つけるのが難しいようです。

歯ブラシは消毒できる?

まず、歯ブラシが消毒できるかどうか。

これについては、歯ブラシを洗浄し、強力な消毒薬を使用したとしても、歯ブラシの毛の植毛部分まで消毒することは極めて困難といえます。

また、歯ブラシのほとんどはプラスチック製品のナイロン毛でできており、熱のかかるオートクレーブによる滅菌は製品の劣化を招くので、ほとんどの歯ブラシには使用できません。

当院では、初診時の問診票と別に「指導用歯ブラシについて」というアンケートをとって、患者さんのご希望を伺っています。

「指導用歯ブラシについて」のアンケート
「指導用歯ブラシについて」のアンケート
  1. 毎回、歯ブラシを持参する。
  2. 自分用に購入したものを医院で保管する。
  3. その他

この回答を色シールで区別し、カルテの隅に貼ります。歯周病治療に入った歯科衛生士は、カルテに貼ってあるシールで患者さんのご希望を判断し、販売用の歯ブラシの中から患者さんに合った歯ブラシの選択に入ります。それを患者さんに院内指導用歯ブラシとして購入していただき、管理しています。

はじめは「① 歯ブラシを持参する」と答えられた方であっても、忘れてくることがあるため、あとから「② 自分専用を保管する」に変更される患者さんが多いです。

色分けシールを貼ったカルテ
色分けシールを貼ったカルテ

歯ブラシの滅菌方法

当院ではオートクレーブ以外に、ホルマリンを使用したガス殺菌器「ホルホープ デンタル」を使用しています。ホルホープ デンタルは、約25℃〜30℃の常温、常圧で殺菌を行なうため、オートクレーブを使用できないさまざまな器具にも使用することができます。

ホルホープ デンタル(モリタ)
モリタのホルホープ デンタル

とくに、熱によってより傷みやすいハンドピースなどにも適しているため、たいへん重宝しています。こちらは常圧で殺菌を行なうため、滅菌バッグは使用できません。直接ホルマリンガスが対象物に当たる状態にセットし、殺菌を行ないます。

通常の洗浄を行ない、乾燥させたのち、専用の殺菌ケースに対象物を入れ、ケース1段であれば50分間、ケース2段であれば90分間で殺菌を行ないます。常温のため、殺菌後に冷ます必要がなく、すぐに使用することが可能です。

患者さん専用の歯ブラシを消毒殺菌する場合は、まず酵素系洗剤で洗浄し、乾燥後にホルホープデンタルにて殺菌しています。

他の器具や歯ブラシと混同しないようにセットする
他の器具や歯ブラシと混同しないようにセットする

先にも述べたように、歯ブラシは植毛部分までの殺菌が困難です。そのため、他の患者さんの歯ブラシと混同しないように、患者さんの目の前で開封して本体と外箱に名前を書き、洗浄殺菌後、あいうえお順に保管しています。

また、劣化してきたら再度購入していただいたり、子ども用歯ブラシの場合、年齢や成長に合わせて購入し直していただいたりしています。

あくまでこれは当院のやり方ですので、クリニックによっては販売用の歯ブラシのラインナップが違います。その場合、たとえば口腔衛生指導用の歯ブラシを統一し、カルテナンバーを歯ブラシに記入して番号順で保管するといった方法も良いと思います。

記名した歯ブラシを管理するカゴ
記名した歯ブラシを管理するカゴ

さまざまなクリニックにお伺いすると、感染管理の面から、歯ブラシを洗浄消毒して使い回すことに違和感を持っていらっしゃる方がほとんどです。

ガス滅菌器がないクリニックは、薬液による化学的滅菌を行なっているかと思いますが、グルタラールやフタラール製剤の場合、浸漬時間が長くなると歯ブラシが著しく傷みますし、植毛部分の残留薬物が心配です。そのまま口腔内で使用すると残留薬物が患者さんの口腔内に入ってしまう可能性がありますので、たいへん危険です。

以前は消毒した歯ブラシを指導に使い回すこともあったかもしれませんが、口腔内は簡単に出血してしまう領域です。院内感染を防止するうえでも、口腔衛生指導に使用する歯ブラシの運用方法は、非常に大切なことだと思います。

今は安価な歯ブラシで品質の良いものが多くあります。サンプルを取り寄せ、どの歯ブラシを導入したら良いか、スタッフの皆さんでディスカッションしてクリニックのやり方を決めるのが良いかもしれませんね。

歯科衛生士
感染管理アドバイザー
日本医療機器学会 第2種滅菌技士
JOAS 第二種歯科感染管理者
日本歯周病学会 会員
L.clare 代表 高野伸枝

感染管理アドバイザーの視点から

第1回 『洗浄・消毒』の種類を知っていますか?
第2回 口腔衛生指導の歯ブラシはどうしていますか?