dStyleではじめるインプラント基礎講座 第3回 インプラントの固定方法とメリット・デメリット

こんにちは!歯科医師の遠藤眞次です。

インプラント治療に関するあなたのモヤモヤを解消する、dStyleではじめるインプラント基礎講座。第3回は「インプラントの固定方法とそれぞれのメリットデメリット」についてお話しします。

前回までの記事はこちら

第1回 インプラント治療への第一歩
第2回 インプラントの構造と仕組み

前回の「インプラントの構造と仕組み」では、インプラントを構成する三つのパーツのうちの「インプラント体」と「アバットメント」について解説しました。今回は残りの「上部構造」について解説します。

上部構造の固定方法には「スクリュー固定」と「セメント固定」がありますが、ここではそれぞれの違いをわかりやすくまとめました。実際の上部構造の装着シーンも参考動画でご覧ください!

[目次]

1.上部構造の材質

2.スクリュー固定とは
① スクリュー固定のメリット
② スクリュー固定のデメリット

3.セメント固定とは
① セメント固定のメリット
② セメント固定のデメリット

4.セメント固定とスクリュー固定の比較

5.実際の術式を見てみよう!

上部構造の材質

上部構造とは、アバットメントに連結する歯冠形態を模したパーツのことで、補綴歯のクラウンに該当する部分です。

歯根をインプラント体、コアをアバットメント、クラウンを上部構造とリンクさせて考えるとわかりやすいと思います。

インプラントと天然歯の構造
インプラント(左)と天然歯(右)の構造

天然歯のクラウンと同様に、インプラントの上部構造の材質にも種類があります。

代表的な材質は以下の通りです。

  • 全部金属冠(金銀パラジウム合金、金合金)
  • レジン前装金属冠
  • メタルボンド(陶材焼付冠)
  • ハイブリッドセラミックス
  • オールセラミックス
  • ジルコニア
  • ジルコニアボンド(陶材焼付ジルコニアクラウン)

現在では強度と審美性を兼ね備えたジルコニアが上部構造の主流で、より審美性が求められる症例ではジルコニアボンドが用いられます。

対合歯とのクリアランスが不足しており、上部構造の厚みがとれない場合や、過度の咬合力が懸念される場合には、咬合面を金属で覆うことができる全部金属冠やメタルボンドが使用されます。

スクリュー固定とは

スクリュー固定とは、アバットメントと上部構造を技工サイドで接着し、それをアバットメントスクリュー(小さいネジ)でインプラント体に固定する方法です。

インプラントドライバーを使用し、アクセスホールからアバットメントスクリューを回すことで上部構造を着脱できます。

左上2番はスクリュー固定の上部構造で、アクセスホールが見える
左上2番はスクリュー固定の上部構造で、アクセスホールが見える(画像は『Daniel Buser, Urs C Belser, DanielWismeijer. ITI Treatment Guide 審美領域におけるインプラント治療 単独歯欠損修復.クインテッセンス出版*1』より引用)

スクリュー固定のメリット

スクリュー固定のメリットは、上部構造装着後も必要に応じて着脱できることです。

インプラントに何か問題が起きた時に、上部構造が取り外せると便利です。着脱して修理したり、インプラント体周囲を直接確認したり、必要であれば手術をしたりすることも容易にできます。

スクリュー固定のデメリット

スクリュー固定は、上部構造の固定がゆるみやすいといわれています。アバットメントスクリューがゆるむと上部構造にかたつきが認められるようになります。

また、スクリュー固定には「アクセスホール」が必要です。アクセスホールの位置によっては審美障害が生じたり、アクセスホール周囲の上部構造が薄くなることでチッピングしたりする場合があります。

アクセスホールをふさぐ際はコンポジットレジンなどを用いますが、完全な封鎖はむずかしく、隙間からアバットメント内に細菌や汚れが侵入してしまいます。

さらにスクリュー固定の場合、特殊な印象操作や技工操作が必要になるので、その結果コストが高額になりがちです。

セメント固定とは

セメント固定とは、アバットメントと上部構造をセメントによって固定する方法です。形成した天然歯にクラウンを装着するイメージに近いですね。

セメント固定の場合でも、アバットメントとインプラント体はスクリューで固定します。スクリューで固定されたアバットメントに、セメントで上部構造を固定します。

セメント固定のメリット

セメント固定では天然歯と同じ工程で上部構造を製作するため、特別な工程はほとんどありません。

また、精度の高い上部構造を製作できるので、上部構造のゆるみが起こりづらいといわれています。加えて必要なパーツも少ないため、コストが比較的安価な場合が多いです。

スクリュー固定と違ってアクセスホールはありませんので、アクセスホールが存在することによる審美障害や強度的問題、細菌の侵入が生じない点もメリットです。

左上2番はセメント固定の上部構造で、アクセスホールがない
左上2番はセメント固定の上部構造で、アクセスホールがない(画像は『Daniel Buser, Urs C Belser, DanielWismeijer. ITI Treatment Guide 審美領域におけるインプラント治療 単独歯欠損修復.クインテッセンス出版*1』より引用)

セメント固定のデメリット

セメント固定のいちばんのデメリットは、一度固定してしまうと外すことができないところです。インプラントに問題が起こって上部構造を外したいと思っても、上部構造を壊さざるを得ません。

また、余剰セメントを取り切れなかった場合、プラークリテンションファクターとなり、インプラント周囲炎のリスクとなることがあります。

セメント固定の場合は、除去しやすいセメントを使用したり、あまり深い位置にマージンを設定しないようにしたりする工夫が必要です。

上部構造がセメント固定されたインプラントに余剰セメントを認める
上部構造がセメント固定されたインプラントに、余剰セメントを認める

セメント固定とスクリュー固定の比較

固定方法には双方にメリットとデメリットがありますが、現在はスクリュー固定が主流となっています。問題が起こった時に上部構造を着脱できることが、長期間インプラントを管理する上で大きなメリットになるということです。

一方、インプラント周囲骨の吸収の程度については、両者で臨床的に大きな差はありませんし、インプラントの生存率も大きく変わるわけではありません*2

また、インプラント周囲炎に関しても、余剰セメントの残存は問題視されているものの、どちらの場合でもインプラント周囲炎は起こりえます。

どちらかが圧倒的に優れているというわけではないので、それぞれのメリットとデメリットを理解し、症例に応じて固定方法を決定していくことが大切だといえます。

実際の術式を見てみよう!

実際に各上部構造を装着するシーンを確認してみましょう。

今回ご紹介する動画は暫間補綴装置に関するものですので、一部に本記事の内容とは関係のない部分があります。

スクリュー固定の様子(1:09〜)


スクリュー固定の様子(引用:公益社団法人日本口腔インプラント学会公式YouTubeチャンネル*3

セメント固定の様子(1:00〜)


セメント固定の様子(引用:公益社団法人日本口腔インプラント学会公式YouTubeチャンネル*3

いかがでしたか?動画で見るとわかりやすいですね!

実際の口腔内だと見えづらいですが、行っている内容はほとんど同じです。ぜひ臨床に活かしていただければと思います。

まだまだ続きます!

今回はインプラントの固定方法とそれぞれのメリット・デメリットについて解説しました。

次回は「インプラント治療の流れと手術方法」についてお送りします。お楽しみに!

参考文献:
*1 Daniel Buser, Urs C Belser, DanielWismeijer. ITI Treatment Guide 審美領域におけるインプラント治療 単独歯欠損修復.クインテッセンス出版
*2 Cleidiel Aparecido Araujo Lemos, Victor Eduardo de Souza Batista, et al.Evaluation of cement-retained versus screw-retained implant-supported restorations for marginal bone loss: A systematic review and meta-analysis. J Prosthet Dent. 2016 Apr;115(4):419-27.
*3 公益社団法人日本口腔インプラント学会. 口腔インプラント学実習書動画. 06暫間補綴装着セメント固定性, 07暫間補綴装着スクリュー固定性.2022年12月20日

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