チェアサイドの栄養指導 はじめの一歩 最終回 栄養指導のポイントをおさらいしよう!

みなさんこんにちは!歯科衛生士の山本典子です。

これまでの連載で、口腔内の健康状態は栄養素と関係が深いことをわかっていただけたのではないでしょうか。最終回では、栄養指導時のポイントをまとめてお伝えしたいと思います。

食生活だけでなく胃腸の調子も聞いてみよう!

口腔内には、歯だけでなく歯肉や粘膜、舌など診るべきところがたくさんあります。それぞれが何でできているのかを考えてみると、必要な栄養素がわかってきます。

たとえば歯なら、カルシウムやリン、マグネシウム、ビタミンDなどでできていますし、歯肉なら、タンパク質やビタミンC、ビタミンA、鉄などでできています。しかし、これらの栄養素を摂取していても、しっかり身体で使われるためには、消化と吸収がきちんと行われることが大事です。ですから、食生活だけでなく患者さんの胃腸の調子も確認することが重要なのです。

「胃薬を飲んでいないか?」「便秘や下痢がないか?」「油ものやお肉で胃もたれしないか?」「お腹のガスが溜まりやすくないか?」…といったような質問をしてみると、意外に不調を抱えている方が多いものです。

また、患者さんの中には生活習慣病の薬やピロリ菌による影響を受けている方がいます。とくにピロリ菌との関係は最近わかってきたことが多く、胃腸の健康を維持するためには無視できないことかと思います。

サプリメントについて

患者さんの中には、薬とサプリメントの区別がついていない方やサプリメントが大好きな方、逆に薬やサプリメントを過剰に避けている方などさまざまな方がいます。

サプリメントについて説明できるようにしておくことに加え、栄養指導をする際には「サプリメントなら〇〇がありますよ」「食品で摂るなら〇〇がおすすめです」といったように、患者さんの気持ちに寄り添ったアドバイスができると良いでしょう

最近では新しいサプリメントもどんどん発売されていますから、アンテナを張っておきましょう。たとえば一口に「鉄のサプリメント」といっても、「ヘム鉄」「キレート鉄」「フェリチン鉄」など、さまざまな名前のものがあります。

「キレート鉄」とは、アミノ酸やクエン酸を非ヘム鉄とくっつけて吸収されやすくしたもので、通常の鉄とは異なり、アミノ酸の吸収経路を使います。日本では認められていませんが、海外からの通販で手軽に手に入ってしまうので、使用している方がいるかもしれません。「吸収しやすくて身体に良いのでは?」と思うかもしれませんが、鉄の過剰摂取は非常に危険ですから安易にはすすめられません。
(参照:チェアサイドの栄養指導 はじめの一歩 第10回 知っておきたい「鉄」の働き

「フェリチン鉄」は、大豆に含まれる鉄のことです。大豆の鉄はそのほとんどがフェリチンに含まれているため、名前の由来となっているのだと思います。

このように、鉄一つをとってもさまざまです。ほかにもたとえば乳酸菌のサプリメントでは、乳酸菌の種類の多さを踏まえると、さらにたくさんの種類があります。歯科でおすすめしやすいサプリメントや、信頼できる品質のものをチェックしておきましょう

添加物・カフェインについて

連載では触れませんでしたが、添加物にも注意してみてください。添加物の中には、身体にとって大切なミネラルを排泄させてしまうものがあります。

また、カフェインの摂取についても聞いてみましょう。カフェインも栄養素の吸収を妨げたり、カフェインによる利尿作用が唾液の分泌を低下させたりすることがあります。とくに高齢者は緑茶をたくさん飲んでいたり、学生やサラリーマンは、エナジードリンクを頻繁に飲んでいたりするため注意が必要です。

栄養指導で大切なこと

こうしてみると、栄養指導で大切なのは、“患者さんからの聴き取り”であることがわかると思います。はじめから食事の記録をお願いすることはハードルが高いですが、「○○をよく食べますか?」といったように、歯周検査の後やブラッシング指導の中であれば聞きやすいでしょう。また、患者さんをチェアーにお通しするときには「今朝は何を食べました?」といったように、世間話の中でさりげなく聞き出せるのではないでしょうか?

患者さんとコミュニケーションをとるのが苦手で世間話ができるかどうか不安な方は、予診票の内容の確認時や、薬のチェックのタイミングであれば、サプリメントについて聞いたり、食の好き嫌いについて聞いたりしやすいかもしれません。

まずは、定期健診やメンテナンスでよく来院する患者さんの中でも、お話が好きな患者さんとのコミュニケーションからはじめてみてはいかがでしょうか。意外に話が盛り上がるかもしれませんよ!

おわりに

これまで患者さんへの栄養指導についてお話ししてきましたが、みなさんは自分の体調について考えたことはありますか

私は栄養の勉強をはじめる前は、よく風邪をひいていました。患者さんから「山本さんもお大事にね!」と言われてしまったことまであります。当時は「患者さんを健康に導く仕事なのに、自分が体調不良になっていては説得力がないな…」と反省しました。

みなさんも、患者さんはもちろんご自分の健康のためにも、ぜひこの連載を参考にしていただけたら嬉しいです。そして、これからも一緒に歯科業界で長く働いていきましょう!

参考文献:
ピロリ菌の除菌療法がブラキシズムと歯周病および口臭に及ぼす影響の解明

チェアサイドの栄養指導 はじめの一歩

第1回 歯を守るための栄養指導
第2回 口腔内を診るときのポイント
第3回 口腔内症状と栄養素の関連性
第4回 サプリメントを効果的に使用するには?
第5回 なぜ口腔ケアに乳酸菌?
第6回 意外と知らないコラーゲンの基礎知識
第7回 いま話題のナイアシンの代謝産物「NMN」って?
第8回 ヘムの構成成分「5-ALA」って?
第9回 ビタミンC足りていますか?
第10回 知っておきたい「鉄」の働き
最終回 栄養指導のポイントをおさらいしよう!