dStyleではじめるインプラント基礎講座 第6回 インプラント周囲炎とメインテナンス

こんにちは!歯科医師の遠藤眞次です。

インプラント治療に関するあなたのモヤモヤを解消する、dStyleではじめるインプラント基礎講座。第6回では、「インプラント周囲炎とメインテナンス」についてお話しします。

前回までの記事はこちら

第1回 インプラント治療への第一歩
第2回 インプラントの構造と仕組み
第3回 インプラントの固定方法とメリット・デメリット
第4回 インプラント治療全体の流れ
第5回 インプラントのシミュレーションと印象採得

インプラントのメインテナンスについて聞くと、「よくわからない」といった声を耳にします。インプラントと天然歯の違いを整理して、インプラントのメインテナンスに積極的に取り組みましょう!

[目次]

1.インプラント周囲炎とは
① インプラント周囲疾患の分類
② インプラント周囲炎の診断基準
③ インプラント周囲炎の症状

2.インプラント周囲炎治療の特徴
① 周囲軟組織の構造の違い
② インプラント体における表面構造の複雑さ

3.インプラント周囲炎の予防
① インプラント周囲粘膜炎の検査
② インプラント周囲粘膜炎の治療

インプラント周囲炎とは

インプラント周囲組織に生じる炎症性病変のことを、「インプラント周囲疾患」といいます。

インプラント周囲疾患には「インプラント周囲粘膜炎」と「インプラント周囲炎」があり、インプラント周囲炎は、インプラント周囲疾患の一つといえます。

インプラント周囲疾患の分類

インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎の違いを以下の表にまとめました*1

項目 インプラント周囲粘膜炎 インプラント周囲炎
病態 周囲粘膜に限局した可逆的炎症性病変 骨吸収をともなう非可逆的炎症性病変
BOP
排膿 +もしくは−
骨吸収
動揺 +(進行した場合)

インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎の違い(『歯周治療のガイドライン2022』*1をもとに編集)

考え方としては、天然歯の歯周病と似ていますね。インプラントの歯肉炎がインプラント周囲粘膜炎、インプラントの歯周炎がインプラント周囲炎と考えるとわかりやすいと思います。

インプラント周囲炎の診断基準

米国歯周病学会とヨーロッパ歯周病連盟が、2017年にインプラント周囲炎の新しい診断基準を提案しました。

その診断基準によると、以下の①〜③のすべてを満たす状態がインプラント周囲炎であるとされています。

  1. インプラント周囲粘膜の炎症がある
  2. 上部構造装着後と比べてエックス線で骨吸収を認める
  3. 上部構造装着後と比べてプロービング値が深くなっている

インプラント周囲炎の症状

インプラント周囲炎は、歯周病と同様に患者さんに自覚症状がない場合がほとんどです。天然歯と異なることとしては、動揺が認められない場合が多いことが挙げられます。

天然歯であれば動揺度3になるような骨吸収があっても、インプラントではまったく揺れないことも多いです。そのため、動揺度をインプラント周囲炎の指標にする際は注意が必要です。

インプラント周囲炎治療の特徴

インプラント周囲疾患の治療は、天然歯の歯周病治療に準じて行われます。インプラント周囲疾患に罹患したインプラントだけではなく、天然歯も含めた一口腔単位の歯周病治療が必須です。

インプラント周囲疾患も歯周病も考え方は変わりません。しかし、インプラント周囲疾患には、インプラントならではの治療をむずかしくする特徴があるのです。

周囲軟組織の構造の違い

歯周組織とインプラント周囲組織の違いには、特徴的なものが二つあります。

一つ目は、インプラントには「歯根膜が存在しないこと」です。歯根膜がないため、歯根膜からの血液供給が受けられません。

二つ目は、インプラントには「結合組織性の付着がないこと」です。結合組織性付着がなく、コラーゲン線維はインプラントの表面に対して平行に走行します。

これらの特徴により、インプラント周囲組織では、天然歯の歯周組織よりも歯冠側からの炎症が深部に波及しやすいといわれています。

プロービング時の模式図と組織像
プロービング時の模式図と組織像。コラーゲン線維(左図青)の走行が異なるため、インプラントではプローブが深く挿入されている。歯根膜の有無にも注目。(画像は『Peri-implantitis』*2より引用)

プローブが深く挿入されやすいということは、周囲組織による防御が弱く、細菌が侵入しやすいことを意味しています。

インプラント体における表面構造の複雑さ

インプラント表面は、骨とのなじみをよくするためにザラザラしています。さらに、骨にしっかりと食い込むようにネジ山が付与されています。これらの構造により、プラークや歯石の除去がしづらくなっています。
(参照:dStyleではじめるインプラント基礎講座 第2回 インプラントの構造と仕組み

インプラント表面のデブライドメント方法は、さまざまなものが議論されていますが、現時点では確実な治療方法は存在しません。

どのようにインプラント周囲炎を予防するかが、歯科衛生士の腕の見せどころです!

インプラント周囲炎の予防

インプラント周囲炎を予防するためには、インプラント周囲粘膜炎の状態を早期に見つけ出し、インプラント周囲炎に移行させないことが大切です。

インプラント周囲粘膜炎の検査

インプラント周囲粘膜炎を見つける際に指標となるのはBOPです。インプラントだからと怖がらず、プロービングを行いましょう。その際に注意すべきことは以下の二つです。

① プロービングの圧をやや弱くする

インプラントのプロービングでは、天然歯のプロービング圧よりもやや弱い「20g程度」が推奨されています。

前述したように、天然歯とインプラントではコラーゲン線維の走行が異なるため、インプラントではプローブを挿入したときの抵抗が弱いことに注意しましょう。

② 上部構造の豊隆を意識する

天然歯の歯根に比べてインプラント体は細いため、上部構造の豊隆が強くなる傾向があります。

上部構造の豊隆がイメージできていないと、プローブを正しく挿入できない場合があります。あらかじめエックス線写真などで上部構造の形をイメージしておくと良いでしょう。

天然歯とインプラント体の豊隆の違い
天然歯とインプラント体の豊隆の違い(画像は『歯科衛生士ブックレットVol.3』*3より引用)

インプラント周囲粘膜炎の治療

何よりも大切なのは「プラークコントロール」です。患者さんに合った清掃用具や清掃方法を指導し、口腔衛生状態を向上させることが重要です。

デブライドメントについては天然歯と同様に、PMTCやエアアブレーション、スケーリングなどを行います。スケーリングの際は、チタンやPEEKでできたインプラント専用のスケーラーチップを使用しましょう。

インプラント用のインスツルメント
インプラント用のインスツルメント。チタン製のキュレット(上段)と、PEEK材でコーティングされた超音波チップ(下段)。

また、必要に応じて抗菌薬や洗口液の使用も有効だと考えられています。

まだまだ続きます!

今回はインプラント周囲炎とメインテナンスについて解説しました。

次回は「覚えておきたいインプラント用語50選」をお送りします。お楽しみに!

参考文献:
*1 特定非営利活動法人日本歯周病学会. 歯周治療のガイドライン2022.医歯薬出版. 2022; p73.
*2 Stefan Renvert,Jean-Louis Giovannoli. Peri-implantitis. クインテッセンス出版. 2013;p23-24.
*3 大月基弘,鈴木秀典. 歯科衛生士ブックレットVol.3 インプラントをずっと使い続けるための着眼点 DHが守れる最後のチャンス! インプラント周囲粘膜炎. クインテッセンス出版. 2020;p16.

dStyleではじめるインプラント基礎講座

第1回 インプラント治療への第一歩
第2回 インプラントの構造と仕組み
第3回 インプラントの固定方法とメリット・デメリット
第4回 インプラント治療全体の流れ
第5回 インプラントのシミュレーションと印象採得
第6回 インプラント周囲炎とメインテナンス