みなさんこんにちは!歯科衛生士の山本典子です。
今回は「鉄」について解説します。
みなさんは鉄と聞いて、身体とどんな関係があると思いますか?女性は「貧血」を思い浮かべる方が多いかもしれませんね。
もちろん、鉄と貧血は深い関係がありますが、鉄には他にも重要な働きがあるのです。
鉄と貧血との関係性
栄養素としての鉄は、成人の体内に男性は約4〜5g、女性では約2.5g存在しています。身体の大きさが違うとはいえ、女性は生理があるにも関わらず鉄の量が男性の約半分しかなく、貧血のリスクが高いことがわかりますね。
鉄の働きとしては、「赤血球を作り、酸素を運ぶこと」が有名です。これは赤血球中のヘモグロビンによるものです。
鉄が足りなくなると、血液の運搬能力が低下し、酸素が体の隅々にまで行きわたらず、酸欠状態になります。これが俗にいう「鉄欠乏性貧血」です。
酸欠は、身体にとって危険な状態です。そのため、鉄は普段から肝臓にフェリチンやヘモシデリンというタンパク質と結合した状態で貯蔵されており、足りなくなった際には取り出されて利用されます。
隠れ貧血に要注意!?
ここで一つ心配なのが、「隠れ貧血」です。
健康診断の貧血の診断は、ヘモグロビン値を測るのが一般的です。男性は13g/dl以下、女性は12g/dl以下で貧血と判断されますが、この値が問題なければ、貧血であるとは判断されません。そのため、鉄分不足に気付かないことがあるのです。
普段からイライラしやすかったり、疲れやすかったりと気になる症状がある場合は、フェリチン値も測ってもらいましょう。フェリチン値は、通常60〜100ng/mlが望ましいとされています。
エネルギー産生における鉄の働き
もう一つ重要なのは、エネルギー産生における鉄の働きです。
鉄により直接エネルギーが作られるわけではありませんが、私たちの身体では、細胞の電子伝達系でエネルギーを作る際に鉄を利用しています。
エネルギーは、解糖系で2ATP(アデノシン三リン酸)が作られるのに対し、電子伝達系では34以上ものATPを作ってくれます。
解糖系は電子伝達系よりもエネルギーの生産量が少ないため、解糖系だけでエネルギーを賄っていると疲れやすくなってしまいます。さらに、鉄が不足している人は、無意識に解糖系でエネルギーを作るために「甘いもの」を求めてしまうのです!
私たち歯科衛生士は、患者さんに「むし歯になるので甘いものをやめましょう」とお話しすることがあると思います。しかし、なかなかやめられないという人もいるのではないでしょうか。
もしかしたら、その患者さんは鉄が不足しているのかも…?という視点をもってみると良いかもしれません。
女性は生理が毎月ありますし、男性も消化管からの出血や痔など、気付かないうちに出血して貧血状態になっている可能性があります。そのような場合に、鉄が多く含まれる食品の提案をできるようにしておきましょう!身近な食材では、「レバー」「イワシ」「マグロ」「ほうれん草」「小松菜」などがおすすめです。
また、鉄の補給を考える際、サプリメントをすすめる方が手軽では?と思うかもしれません。しかし、安易に鉄のサプリメントをすすめることは避けてください。
私たちの身体が鉄を求めるのと同じように、細菌も鉄が大好物です。そのため、もし身体に炎症がある場合、栄養となる鉄を餌として炎症が大きくなってしまいます。
身近な例として、歯周病の急性症状があります。
SRPの後に、患者さんになぜか「腫れてしまった」といわれたことはありませんか?
これは、SRPの際の出血によって引き起こされている可能性があります。口腔内の細菌が、血液中の鉄分を餌にして増殖し、炎症を大きくしてしまうのです。
観血処置をする際は、患者さんの体調やプラークコントロールの状態に気を配るようにしましょう!
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話は身体から離れますが、東北地方で「森は海の恋人」という活動があります。気仙沼湾に流れる大川上流の山に木を植える活動で、1989年からはじまりました。
宮城県・気仙沼は牡蠣の養殖地として有名ですが、この牡蠣の餌になるプランクトンが上手く育たないことがあったそうです。
その際、山の腐葉土をろ過し、殺菌して使用すると、プランクトンがたくさん増えたといいます。研究の結果、プランクトンが増えたのは、腐葉土の中に含まれる「鉄」のおかげだったことが判明しました。
山からの水が川に流れ、海に流れ込む。これにより、鉄分が供給され、牡蠣の餌となるプランクトンが育ち、立派な牡蠣が育つといいます。
森が元気でなければ、牡蠣だけでなく、海藻なども育ちません。このような背景から、植林の活動がはじまったのです。
実は、地球そのものにも鉄が多いのを知っていますか?
なんと、地球の約30%が鉄でできているのだそうです。海底にも鉄がたくさんあり、そのため海藻や魚介類が多く育つのでしょう。私たちは、鉄からとても多くの恩恵を受けていることがわかりますね!
最終回となる次回では、栄養指導時のポイントをまとめてお伝します。
チェアサイドの栄養指導 はじめの一歩
第1回 歯を守るための栄養指導
第2回 口腔内を診るときのポイント
第3回 口腔内症状と栄養素の関連性
第4回 サプリメントを効果的に使用するには?
第5回 なぜ口腔ケアに乳酸菌?
第6回 意外と知らないコラーゲンの基礎知識
第7回 いま話題のナイアシンの代謝産物「NMN」って?
第8回 ヘムの構成成分「5-ALA」って?
第9回 ビタミンC足りていますか?
第10回 知っておきたい「鉄」の働き