海外における歯科保健指導 in フィリピン vol.4〜現地での歯科保健指導に向けて〜

みなさんこんにちは!歯科衛生士の中村麻智子と申します。

この連載では、フィリピン共和国への留学で経験した歯科保健指導についてお伝えします。

国際協力や発展途上国支援、海外における歯科保健活動に興味のある歯科医療従事者の方をはじめ、海外に興味のない方でも、世界の現状を知る機会にしていただけると嬉しいです。

前回まではこちら

vol.1 〜留学したきっかけ〜
vol.2 〜留学生活と、はじめての歯科保健指導〜
vol.3 〜フィリピンの歯科医療事情〜

大阪市中ノ島にあるうしくぼ歯科DUO大阪歯科医院での英語歯科診療をきっかけに、語学留学でスキルアップするために訪れたフィリピン。

語学学習のかたわら、限られた時間ながらも、これまでの行政経験を活かすことができ、ほんの一部ではありますが少しずつフィリピンでの歯科保健、歯科医療の実情が自分なりに掴めてきました。

グループ授業の先生とメンバー
語学学校のグループ授業の先生とメンバー

これまでに分かったこと

フィリピンにきてから、はや数週間が経とうとする中で、次のような実態が見えてきました。

  • 成人・保護者、児童において歯科保健の重要性に対する意識が低い
  • 乳歯は生え変わるからむし歯になってもかまわないという考えがある
  • 口腔内衛生・口腔内環境の個人差が激しい
  • 幼児はランパントカリエスが多い
  • 成人は、前歯はあるが臼歯が崩壊もしくは欠損している人が多い
  • カリエス治療や予防にかかわる治療より、審美的観点での矯正治療が人気
  • 歯科医療関係者間では、あまり地域歯科保健に関心が向いていない様子
  • 甘いものが大好きな国民性

私は少しずつ見えてきたこれらの実態に、大変危機感を覚えました。

歯科保健指導を通じて、子どもたちにおいしいもの、すきなものを歯の痛みがない状態で食べてもらいたい。

乳歯がカリエスの場合は、今痛みがあってもそれを拭ってあげられないけれど、永久歯に期待をしたい。そして、豊かな生活を送ってもらい、明るい将来を作ってもらいたい。

歯が痛くて眠れない夜をなくしたい。

たくさんの想いを胸に、次の5つのことを頭の中で整理しました。

考えた5つのこと

1.気持ち・やる気

語学留学中の限られた時間の中で、自分のこれまでの知識・経験を最大限に活かし、何か役に立ちたい。

交流した方の将来につながる有益なものを残したい。

2.現実・できないこと

歯科治療。口腔疾患による痛みを取り除くこと

3.できること

歯科保健教育、歯科衛生実地指導、口腔健康のための正しい知識の理解の周知・啓蒙活動など公衆衛生活動

4.自分自身の得意分野

患者さんの心に寄り添ったOHI(Oral Hygiene Instructions)

5.理想・ゴール

たった一回の歯科保健指導だったとしても、一生忘れられないものにしてもらいたい。この保健指導を将来にもずっと継続し、一生涯「健口」を保って、健康でいてほしい。

少しでも、数人でもいいから世界の底上げをしたい。

今回、フィリピンで一人、歯科保健指導をするという決心の基盤となったのが、DUO大阪歯科医院での患者さん、歯科医師、歯科衛生士が三位一体となり、共に歯科疾患の治癒に向け歩んだという、たくさんの成功体験でした。

歯科治療とメンテナンスに途切れることなく継続して来院していただくには、患者さんとの信頼関係が必要不可欠です。

患者さんの生活スタイルなど背景を知り、それぞれに合った口腔清掃方法の提案と実践。そして、患者さんに口腔内の改善をご自身で実感していただく。

そのためには、それぞれの患者さんに合った話の持って行き方や、接し方、いわゆる「察する」ということや、空気を読むといったことが非常に大切です。

中でも、私はOHIの際にいちばん患者さんの心に寄り添っていたように思います。毎日が、患者さんと心が通じ合う尊い瞬間の日々でした。

心に寄り添ったOHIの方法は、私自身の得意分野でもあり、強みでもあり、これまで培った知識や経験をもっとも発揮できるスキルです。

この方法でいける!

そう確信しました。

フィリピンにおける歯科医療、歯科保健の実情が少しずつ掴めてきたことで、自分のできること、できないこと、得意分野、ゴールなど勘案し一つの幹となる方向性がみえてきました。

バギオ市内のスーパーで買い物中の女の子と
バギオ市内のスーパーで買い物中の女の子と

歯科保健指導のスライドづくりへ

そして、私は語学学校の授業のスキマ時間で、歯科保健指導のスライドを作りはじめました。

全体の大まかな流れは、前半が歯科保健教育、後半は歯科衛生実地指導(歯磨き指導)です。

私の在籍していたPines International Academyでは、コースにもよりますが7:00~22:30まで授業があり、びっちりとカリキュラムが組まれています。

また、予習をしておかないと授業についていけないので、休み時間や昼休みは予習、授業の後はホームワーク、体力維持のための睡眠と、それぞれ効率良く時間を使わないといけません。

それに加えて、英語でスライドづくりをすることは、体力的にきついところもありました。

また、DUO大阪歯科医院では、症例発表などの歯科専門職を対象にした内容の発表を行っていたため、当然、日本語でスライドを作り、話をしていましたが、今回は一般の外国の方(主に児童・保護者)が対象のため、英語で資料を作り、話をするので少し不安もありました。

しかし、新しい挑戦をしてみよう!という気持ちで臨みました。

はじめて作った時のスライド
はじめて作った時のスライド

より伝わるように、フィリピンの文化の写真も取り入れてみました
より伝わるように、フィリピンの文化の写真も取り入れてみました

Pines International Academyではグループ授業と、個人授業の両方が行われます。

フィリピンの文化や国民性をまだよくわかっていない私は、個人授業の際、先生方に相談をしてみました。

先生方からは、次のような意見をいただきました。

  • あなたはフィリピンでは「外国人」だから、こういったアクションを起こす際には注意が必要。最近、外国人による子どもの誘拐が増えているため、保護者も敏感になっているから、歯科保健指導の際に警察をつけた方がいいかもしれない。
  • 慈善活動をしている知り合いに聞いてみようか?
  • いきなりパブリックマーケット付近などの離れた大きな広場には行かずに、まずは学校のそばにある小さな広場からはじめてみてはどうか。
実際にフィリピンでは市町に銃を持っている警察や軍の方がいます
実際にフィリピンでは市町に銃を持っている警察や軍の方がいます

そして、どの先生からも言われたことが、一つだけあります。

すごくいいことよ!需要があるわ!がんばりなさい!協力するわ!

先生方の応援は大変心強く、私の不安を払拭してくれました。また、より頑張ろうという気持ちにさせてくれました。

また、先生方にはたくさんのアドバイスに加え、作りはじめたスライドの英語の添削や表現方法、文法の修正、発音もみていただきました。

まずは第一歩!実践をしてあとは改善を加えていけばいい。これは行政勤務の頃に、県の計画を進めていく時に学んだことです。

正解なんてない、決して完璧ではないけれど、想いはしっかり込めたスライド。

できる限り時間を作り、練習を繰り返しました。また、個人授業の際には、かならず1回は先生方の協力を経て、文言や発音の練習をしました。

そして、語学学校のそばにあった雑貨屋さんで子ども用歯ブラシ数本をそろえ、物品も資料も、心の準備も順に整えていきました。

個人授業で歯科保健指導の相談にのって応援してくれた先生
個人授業で歯科保健指導の相談にのって応援してくれた先生

次回は、近所の子供達に歯科保健指導した時のお話をします。

海外における歯科保健指導 in フィリピン

vol.1 〜留学したきっかけ〜
vol.2 〜留学生活と、はじめての歯科保健指導〜
vol.3 〜フィリピンの歯科事情〜
vol.4 〜現地での歯科保健指導に向けて〜