スタッフ育成のポイント part2.こんな質問にどう答える?「教育システムはありますか」

チーフ歯科衛生士の流儀 スタッフ育成のポイント part2.こんな質問にどう答える?「教育システムはありますか」?

新人歯科衛生士の教育担当者やクリニックの求人に関わる仕事を担当している方は、今回のテーマである「教育システムはありますか」という質問を、1回は受けられたことがあるのではないでしょうか。

私は長年、クリニックの求人に関する仕事に携わって参りましたが、ここ数年、この質問をかならず受けます。

正直なところ、私が就職活動をしていたときはこのようなことをあまり考えていませんでした。

自分が求めている診療内容を行っているか、スタッフの人柄や人間関係はどうだろうか、ということを考えて就職活動していたように記憶しています。

しかし、現在はクリニックに見学にいらっしゃる方や面接希望の方から「教育システムはありますか」と、ほぼかならず聞かれます。

私はこの質問から相反するふたつのことを感じています。

1つ目は、就職して働きはじめてからも多くのことを学び吸収(鍛錬)しなければならないことを理解した上での質問と捉え、感心する気持ち。

2つ目は自ら積極的に学ぶ意欲を感じる機会が薄くなっているのではないかと思うのも、事実だと思っています。

厳しく言えば、自分自身の成長をも他人任せなのではないかと...少々心配にもなってしまいます。

当医院に勤務しています新人歯科衛生士が見学、面接にきたときも同じような質問を受けたと思い出し、なぜそのような質問をしたのか、気になったのかを確認しました。

返ってきた答えはなんと、歯科衛生士学校で先生から「就職した後に自分を育ててもらえる環境かどうかを見てきなさい」と言われ、この質問をしたそうです。

確かに、私が数校の歯科衛生士学校で特別授業などを行い、教務の先生や就職担当者の方とお話した際に歯科衛生士の離職率が高いことを教えていただいたことがあります。

そして、その原因の一つに「分からないままやらされる」「できないままやっている」「誰も教えてくれる人がいない」などのいわゆる職場環境が問題となっていると伺ったことがありました。

つまり、これまでの話を整理すると、歯科衛生士が就職先のクリニックに求めていること、またクリニック側としても歯科衛生士の離職を防ぐためには、院内の「教育システム」が重要事項であると考えられるかと思います。

そして、ここで再度ご質問です。

ご自身が勤務されているクリニックに「教育システムはありますか」。

「あります」と即答できる方がご勤務されているクリニックは、きっと求人やスタッフ育成でお困りのことはないのではないでしょうか。

「ない」もしくはお答えに迷いが生じる方は、今一度、「教育システム」の基盤となる診療においての新人歯科衛生士への指導や成長過程を振り返ってみてはいかがでしょうか。

ここからは、当医院における「教育システム」について、下記項目に沿ってご紹介させていただきます。

  1. 目標を明確にする
  2. 業務内容を詳細に表記する
  3. 情報の共有と評価時間を設ける
定期的な三者面談の様子
新入社員と教育担当、院長との三者面談

① 目標を明確にする

前回までの連載で、「DH基準書」についてご紹介させていただきました。
(参照:スタッフ育成のポイント part1.新たな仲間を受け入れる準備はできていますか?

歯科衛生士の入社時にお渡しするDH基準書
歯科衛生士の入社時にお渡しする「DH基準書」

当医院では新人や既卒、職種に問わず新入社員として迎え入れるスタッフには、いくつかの資料をお渡しします。

そしてさらに歯科衛生士には、「DH基準書」の活用方法を説明の上、お渡ししています。これが、当医院の「教育システム」の基盤となります。

基準書の内容は、入社後1年以内に患者さんを担当し、歯周治療などを含めた歯科衛生士業務ができるようになることを目標としています。

当医院は担当制となっておりますが、患者さんが担当歯科衛生士を指名することはほとんどありません。

つまり、医院都合で担当者が決まります。そのため、当医院を選びご来院いただいた患者さんには、同じ質や考え方の医療を提供する義務があります。

先輩歯科衛生士、後輩歯科衛生士のキャリアに差はあれど、業務には差異が出ないように、この目標にしています。

② 業務内容を詳細に表記する

1年以内に確実に目標を達成することは、決して簡単ではありません。

特に新卒の方々の場合は初めての就職であり、社会人としての1年目は「分からないこと」「やらなければならないこと」だらけで大変な毎日を過ごしているはずです。

1年以内に目標を達成するためには、さまざまな達成業務の積み重ねが重要です。

また、長い道のりの中、自分自身を冷静に判断し、自信や立場を見失わないためにも短期間での細かな業務達成記録が必須です。

そのため「DH基準書」には、業務内容と併せて、期限と目標達成月を記載しています。

そうすることで、その仕事がいつまでに何をできるようにならなければいけないのか、何ができるようになったのかが明確になり、診療に反映しやすくなります。

③ 情報の共有と評価時間を設ける

目標達成や業務達成記録については、新入社員と教育担当者とが話し合う時間を設けており、最低でも月に1回、30分くらいの時間をかけています。

ここで大事なのは、目標達成できていないことだけに着目するのではなく、達成できていることにも目を向けて、適切な評価をすることです。

先輩からのちょっとした一言が、新人への大きな励ましや自信につながります。また、この時間は業務記録の評価だけではなく、「新人のお悩み相談会」の役割も担っています。

スウェーデン流にいうならば「フィーカ:fika」。日本流にいうならば「お茶の時間、一息つこうよ」。

これは私の経験談になってしまいますが、その効果を感じるには多くの時間を費やすかもしれません。しかし、おなじ時を過ごすことで得られることがかならずあります。

このことは「教育システム」の対象となる歯科衛生士、教育担当者の歯科衛生士双方にとって間違いなくかけがえのないものになると実感しています。

新入社員と教育担当者の話し合いは、お悩み相談の場としても活用
新入社員と教育担当者の話し合いは、お悩み相談の場としても活用

今回は、当医院の「教育システム」の概要をご紹介させていただきました。

各クリニックによって新入社員の目標や業務内容は異なるかと思いますが、このシステム作りは新人・既存スタッフやクリニック、そして求人をする際などにも共通して重要な事柄です。

定期的なブラッシュアップも兼ねて今一度、クリニックの「教育システム」を見直してみてはいかがでしょうか。

チーフ歯科衛生士の流儀

series1.医院のルールづくり

part1.働きやすい職場環境について考える
part2.あったら良いな、こんなルール
part3.ルールの活用方法

series2.スタッフ育成のポイント

part1.新たな仲間を受け入れる準備はできていますか?
part2.こんな質問にどう答える?「教育システムはありますか」