多職種連携で防ぐオーラルフレイル #02 視野を広げたフレイル予防プロジェクト

こんにちは。歯科衛生士の梅谷有未です。

私はオーラルフレイル予防を行う『一般社団法人グッドネイバーズカンパニー』に所属し、口腔機能改善を目的としたさまざまな活動を行っています。

本連載では、この活動を通した想いや、取り組みについてみなさんにシェアできたらと思います。

前回の記事はこちら

#01 歯科衛生士として行う口腔機能改善とは?

高齢者向けセミナーの講師をして気付いたこと

くちビルディングの認定トレーナーになってすぐ、まだ、ギリギリコロナの影響が出ていなかった時に滑り込みセーフで開催できたのが、地元相模原の地域包括支援センターでの高齢者向けの口腔ケアセミナーでした。

私の海外でのボランティア活動を聞いた知人が、支援センターの方に紹介してくれたことがきっかけです。

対象は地域の高齢者でした。内容は私のお任せで、時間は1時間。

地元ということもあり、小さい頃にお世話になった方のお顔もチラホラ…。

ひょんなことから、「故郷へ錦を飾る(?)」ことになった私ですが(笑)、いかんせん、どんな人が集まるかも、お口の状態もわからない状況です…。

パワーポイントで資料を作り、ああでもない、こうでもないと打ち合わせをした結果、下記の内容で開催することを決めました。

  1. 何について興味があるかを聞き出す(イラストを交えて3択にしました)
    1. オーラルフレイル予防と幸福寿命について
    2. お口と全身疾患・認知症について
    3. 若返りと健康について
  2. 上記3択のすべてにおいてお口が大切ということを説明
  3. 具体的な口腔ケアの方法と簡単なお口のお勉強
  4. オーラルフレイル予防の体操とくちビルディング

楽しく雑談のような形をとりたかったので、テーブルはとっぱらい、ホワイトボードを真ん中に置き、椅子を円形に並べて私が中心にくる形にしました。

高齢者向け口腔ケアセミナー
地元相模原の地域包括支援センターでの口腔ケアセミナーの様子(中心が筆者)

開催してみて気付いたことは、高齢者自身も「歯磨き」をする必要があることはわかっているものの、お口の健康状態が全身に関わることまではまだ周知されていないこと

そして、ちょっとしたきっかけで凄く興味を持ってもらえることでした。

たとえば、「1回噛むごとに脳に流れる血液の量は?」「お口の中で全身と繋がっているところはどこでしょう?」「1日の唾液の量は?」などなど。いろいろなツールを使いながら、目で見てわかるようなクイズを出すと、みなさん興味津々です

くちビルディングの競技の1つに「黒ヒゲぺろり」があります。鼻の下に海苔を貼り、舌で取るのに何秒かかるかを競い合うという内容です。

実践すると、みなさん笑顔で一生懸命取り掛かってくれました。

競技が終わる頃には、「舌って普段使ってないかも!」「結構良い運動になる!」「舌も口の中の1つだわ!」など、さまざまな感想が飛び交い、舌の機能に興味を持たれる方が多くいらっしゃいました。

これは、臨床でも同じことです

「なぜやるのか?」
「どんな意味があるのか?」
「実践することでどうなるのか?」

患者さんが自ら気付いて、能動的になってくれるようなアプローチを歯科衛生士がしっかり行えると、患者さんの口腔内がもっともっと良くなるし、お口に興味をもってくれるようになります。

そして、それが押し付けにならないよう、楽しくコミュニケーションをとることがいちばん大切です

高齢者向け口腔ケアセミナー
参加者に歯ブラシの当て方を指導する筆者

実は、セミナーの開催が決まった当初は、対象が高齢者と知り若干尻込みしたことも事実です。

「私なんて若輩者だし…」と、一瞬思いました。
「先生」と呼ばれることも嫌でした。

でも、しっかりした知識の元に自信をもって仕事をすることがプロの責任ですよね。「自分がやりたいようにやって、楽しんでもらえるようにしよう!」と意を決して力を出しきった1時間。

セミナー終了後には、「こんなにざっくばらんに話ができて楽しかったのははじめて!」と声をかけていただき、心の底から安堵しました。

特に、くちビルディングに関してはとても手ごたえを感じ、言葉で伝えるよりも、楽しみながら実践することの効果を目の当たりにすることができました。まさに「百聞は一見にしかず」です。

私は日頃の臨床でも、言葉で説明するよりも実際に体験してもらったり、実践してもらったりすることに重きを置いているので、今後もそのスタイルを貫こうと思いました。

コロナ禍で立ち上がったプロジェクト

このセミナーの後、前回も書いたように、新型コロナウイルスが本格的に蔓延し、高齢者対象のイベントがまったく行えなくなってしまいました。くちビルディングも同じ状況です。

お口を使う競技「くちビルディング選手権」では、唾液などの飛沫対策を取ることがほぼ不可能です。トレーナー同士の情報交換の場でも、開催できないことが話題に上ることが多く、コロナ禍での孤立・フレイルなど、新たな問題に対しての話し合いがたびたび行われました。

そして、協議を重ねた結果、在宅でも楽しく・正しくフレイル予防ができるようにと、「まいにち、くちビル」という企画が立ち上がりました!

「まいにち、くちビル」は、日めくりカレンダー方式でお口と全身のフレイル予防ツールを届けるというプロジェクトです。お口の大切さを知ってもらうきっかけにもなるし、何より楽しく自発的にできる、くちビルディングがうってつけであるとの考えから生まれました。

「まいにち、くちビル」のリモート会議の様子
「まいにち、くちビル」のリモート会議の様子

プロジェクトは、高齢者の方に無料で利用していただけるように、クラウドファンディングで資金を集めるところからはじまりました。デザイン・内容・日めくりごとの名前を決め、ツールのダウンロードページを立ち上げたり、専門家による内容の確認を行ったりしました。

主にグッドネイバーズカンパニーの代表メンバーの方々がメインで進めていき、私たちトレーナーはオンライン会議で内容の確認や意見交換、試作段階のツールのテスト、クラウドファンディングページの広報などを行いました。

代表メンバーをはじめすべてのトレーナーたちは各々の通常勤務がある中、勤務終了後にミーティングが続く日々。しかし、オンライン会議ではみんなすごくやる気に満ちており、疲れを微塵も出していませんでした。

会議そのものも、さまざまな職種の先輩方の意見や考え方を聞くことができたと同時に、メンバーみんなのキャラの濃さが面白すぎて、毎回とても楽しく参加できました。

クラウドファンディングでの目標金額を達成し、「まいにち、くちビル」を無料で配布できることが決定した時には、オンラインでの祝勝会で喜び合いました。しかし、メンバーと集まって直接ハグできないことが本当に悔しかったです…。

オンラインで「黒ヒゲぺろり」を実践する様子
オンラインで「黒ヒゲぺろり」を実践する様子

多職種連携の必要性

ともあれ、無事「まいにち、くちビル」が配布できる運びとなりましたが、歯科衛生士個人で活用して広めるのには限界があることに気付きました。

それは私が歯科医院で勤務していることと、院内で歯科衛生士が単体でできることには限度があるためです。そして何より、お口の健康だけではなく全身の健康のためには他職種との連携が不可欠ということがいちばんの理由です。

当初は歯科衛生士として、もっとフレイル予防や口腔機能改善の知識やスキルがほしいと思って認定トレーナーの資格を取りました。

しかし、今回の企画に関わったことで、他職種の方々の仕事ぶりや、オーラルフレイルに対する関わり方を目の当たりにし、「歯科側」からしかものを見られていなかったのだと気付きました。

散々「全身の健康はお口から」などと言っていましたが、それは健康で全身状態が安定している場合に言えることなのでは?と。

たしかに、口腔状態が全身への影響を及ぼし、お口の健康が全身のさまざまな疾患に関わることは事実です。そのため「全身の健康はお口から」と、心から思って働いていました。

しかし、それはお口のケアだけをしていれば良いということではありません。特に高齢者や基礎疾患がある方には、口腔ケアに加えて歯科以外の職種との連携が必要だということを痛感しました。

それを踏まえて、今後の「まいにち、くちビル」の活用方法を考えている最中…。うってつけのイベントからお声をかけていただきました!

コロナ禍での引きこもりやフレイル予防のイベント…その名も「おやまGOGOレンジャー」です!

次回は、その内容についてお話ししたいと思います。

多職種連携で防ぐオーラルフレイル

#01 歯科衛生士として行う口腔機能改善とは?
#02 視野を広げたフレイル予防プロジェクト