多職種連携で防ぐオーラルフレイル #03 歯科領域の垣根を越えたアプローチの価値

こんにちは。歯科衛生士の梅谷有未です。

私はオーラルフレイル予防を行う『一般社団法人グッドネイバーズカンパニー』に所属し、口腔機能改善を目的としたさまざまな活動を行っています。

本連載では、この活動を通した想いや、取り組みについてみなさんにシェアできたらと思います。

前回の記事はこちら

#01 歯科衛生士として行う口腔機能改善とは?
#02 視野を広げたフレイル予防プロジェクト

多職種連携で防ぐオーラルフレイル

「小山GOGOレンジャー」発足の背景

前回の記事でもお話しした通り、歯科衛生士単体での患者さんとの関わりにちょっとモヤッとしていた頃のこと。

地元の地域包括支援センターから新しいイベントにお誘いしていただきました。

地域包括支援センターで、過去のイベントに関わったさまざまな分野の専門職が集結して、「コロナ禍での高齢者のフレイル予防や孤立を防ごう!」というイベントです。

もともとこの地域包括支援センターでは、クイズを解きながら地域を歩き回るスタンプラリーを行っており、地域交流の機会が増える魅力的なイベントとして開催されていました。今回はそれにプラスして、「毎日楽しく自宅でできる宿題」を参加者に提供することになりました。

そして私は、理学療法士や健康運動指導士、管理栄養士、臨床心理士の方々が勢揃いの中、口腔分野のメンバーとして声をかけてもらったのです。周りのみなさんは、過去に地域包括支援センターと関わったことがあるプロフェッショナルばかりです。

こうして「小山GOGOレンジャー」となった私たち5人は高齢者の方々のフレイルを守るべく、相模原に集結したのでした!

「地域包括支援センター」とは?

しかし最近ちょくちょく耳にする「地域包括支援センター」とは、そもそも何なのか?実は、参加するまで私自身も疑問に思っていたことの一つです。

簡単にいうと「地域の見守り・相談・支援を行う部隊」です!

その管轄地域に住んでいる方のさまざまな相談にのったり、ケアの必要があればしかるべき施設を紹介したりします。また、高齢者の健康増進のためにイベントを企画することもあります。

他にも、「子ども食堂」や「高齢者の憩いの場」を提供するなど、活動は多岐にわたります。

その活動を続けるためには、さまざまな分野の専門家との連携が必要です。今回のメンバーからもわかるとおり、地域を支援するためにはたくさんの方々の協力が不可欠なのです。

「Go To ウォーキングおやま」with 小山 GOGOレンジャー、始動!

さて、晴れてレンジャーに入隊した梅谷ですが…。

他の職種のプロの方々、しかも大先輩方とのお仕事なんて初の試み。第一印象は「みんなちゃんとしている…!」でした。

打ち合わせは主にオンライン会議でしたが、ずっと歯科衛生士一筋でやってきた私には、オンライン会議の雰囲気に思わず緊張。

笑顔であいさつしながらも頭の中によぎるのは、「みなさんはどんな仕事をしているのだろう…健康運動指導士ってなんだろう?」「いつものテンションではまずい、真面目に話さないと…」なんてことばかりでした。

そして、初回の打ち合わせが終わり、無事に「Go To ウォーキングおやま」という企画が立ち上がりました!

この企画は、地域50ヶ所以上の場所にクイズを作り、スタンプラリー形式でいろいろな場所を歩き周るイベントです。

「ゴートゥーウォーキングおやま」with「小山GOGOレンジャー」
「Go To ウォーキングおやま」の案内。条件をクリアすると景品がもらえる

オンラインでの打ち合わせや書類提出、メール確認、データ送付など、一通りの業務を経て、無事にGOGOレンジャーからの「宿題ノート」が完成となりました!

多職種の専門家たちが集結して作り上げられただけあって、とっても贅沢で濃い内容のノートです。

内容は、「運動の宿題」「栄養の宿題」「口腔の宿題」「認知症予防の宿題」など、どれも自宅で楽しくフレイル予防ができる宿題ばかり。

「Go To ウォーキングおやま」の宿題
「Go To ウォーキングおやま」で出題された宿題①
「Go To ウォーキングおやま」の宿題
「Go To ウォーキングおやま」で出題された宿題②

さらに、参加された方には特典も!レンジャー隊長の理学療法士小川さんを中心としたメンバーから、「参加前後の身体検査や評価をしてもらえる」という内容でした。

最終的に参加者は150人を越え、イベントは無事大成功!

終了後のアンケートの評判も良く、「開始前と開始後で体や心に変化があった!」という嬉しい回答や、口腔の宿題を行った方からは「むせにくくなった」とのお声をいただくことができました。

「Go To ウォーキングおやま」
イベントの様子

今振り返っても、これだけさまざまな専門職が集まり、みんなで同じ目的をもって仕事をすることは、なんて贅沢ですごいことなのかと思います。

一口に「フレイル予防」といっても、5人の専門職からの宿題は、それぞれ多角的にアプローチされており、介護予防にもさまざまな方法があることを学びました。

「これで小山地域の高齢者さんのフレイルは守られたかも!」と、こっそり自画自賛してしまったくらいです!

「Go To ウォーキングおやま」
チェックポイントが記載された地図。全部で50箇所以上ある。

今回の企画がきっかけで立ち上がった「小山GOGOレンジャー」ですが、このように多職種が連携して高齢者の方々や地域へ向けた支援活動ができるチームはなかなかないのではないでしょうか?

また、このイベントを通じて、さまざまな職種の方と一緒にお仕事をするという、とても貴重な体験ができました。

今後も地域の健康を守るべく、レンジャーは活動を続けるつもりです!

多職種連携による垣根を越えたアプローチの価値

「全身の健康はお口から」といいますが、「小山GOGOレンジャー」のように、多職種がいろんな角度からアプローチすることにとても魅力を感じました

今までは、歯科衛生士として純粋に「全身の健康はお口から」と考えていました。患者さんのお口を診るということは、その方の生活、ひいては人生をみることだと思っていました。

そのためにはスキルやコミュニケーション能力、人をみる力がとても大切だと思いますし、その考え方は今でも変わっていません。

ただ、患者さんに対して「深くしっかり診たい」と思えば思うほど、歯科領域だけでできることには限界があるのでは?とも考えるようになりました。

患者さんからたくさん感謝の言葉をもらう中で、いつも自分の100%の力で向き合ってきましたが、長く担当していると、歯科医院の中だけでは解決できない問題に直面することが度々あります

たとえば、急に認知症の症状を発症し、予約がわからなくなってしまった方。一人暮らしの彼女をそのまま帰すことが心配で、かかりつけの病院に電話をしましたが、その後のフォローができずに悶々とした経験があります。

持病がある方が、予約のとき以外に「痰を吸引してほしい」と来院されたこともあります。何度も「うちではできない」と説明しても、納得してもらえず困ったことも…。

他にも、全身の筋肉が徐々に衰える病気になり、メインテナンスの度に少しずつ歩く速度が遅くなる患者さんもいました。そうなると、口腔内の筋肉も衰えてしまうので、歯科治療中も誤嚥しないような配慮が必要になります。

このような経験を通して、歯科衛生士である私たちには、歯科以外の知識や経験が必要な場面がたくさんあると気づきました

「全身の健康はお口から」という考え方は、かならずしもすべての患者さんに通用するわけではないのです。

歯科医院の中だけでは解決できない問題については、できる範囲で対応を行い、口腔内の健康を可能な限り回復することで、QOLを少しずつでも向上させることが重要になるのではないかと感じます。

そのためにも、「この場合はここに相談しよう」や「かかりつけ医に連絡をとってみよう」など、医科歯科連携を積極的にとれる仕組みがもっと増えたら良いな、と思います。

歯科医院は老若男女を問わず、健康な方から疾患がある方まで、ありとあらゆる患者さんが来院します。

そこで働く歯科衛生士は、患者さん一人ひとりに合わせた知識やスキル、コミュニケーション能力を発揮する必要があります。

しかしそれだけでなく、患者さんが個別に抱えている課題、たとえば全身疾患のことや地域の相談先、その方のかかりつけ医のことなどに目を向ければ、さらに幅広い知識と経験を得ることができるようになるのではないでしょうか。

最後に

日本で「予防」という領域が確立されているのは、今のところ歯科だけではないかと思います。

そして、その「予防歯科」の主役は患者さんと歯科衛生士です!

歯科衛生士である私たちが患者さんをしっかり診ることは、これからの歯科業界にとって当たり前だけれどとても重要なことです。

「短期的な目線ではなく、患者さんの10年20年先まで責任がもてるような歯科衛生士でいたい

そう思い続けながら、これからも笑顔で日々の臨床に臨みたいと思います。

多職種連携で防ぐオーラルフレイル

#01 歯科衛生士として行う口腔機能改善とは?
#02 視野を広げたフレイル予防プロジェクト
#03 歯科領域の垣根を越えたアプローチの価値