グリフィス友美のアメリカ歯科界ニュース #02 アメリカにおける歯科衛生士の魅力とは

こんにちは、アメリカで歯科衛生士として働いているグリフィス友美です。

みなさんは、「アメリカ×歯科業界」と聞いて何を思い浮かべますか?

最新の情報が飛び交っていそう、歯科医療従事者のレベルが高そう、などさまざまかと思います。

本連載では、みなさんに最新のアメリカの歯科事情をお届けできればと思います。

前回の記事はこちら

#01 アメリカで普及中!デンタルセラピストとは

今回は、「アメリカにおける歯科衛生士の魅力」についてお伝えします。

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アメリカにおける歯科衛生士の魅力とは?

アメリカの歯科衛生士は「ベスト・ヘルスケア・ジョブ」のトップ10にいつも入るくらい人気の職業です。

アメリカでは、歯科衛生士という職業はライフスタイルに合わせて働きやすい上、今後も需要が見込まれる職業のため、失業率も低いと考えられているのです。

しかし、歯科衛生士には多くのスキルが求められ、単に志望するだけではなれません。歯科衛生士プログラムへの入学は競争率が高く、狭き門となっています

歯科衛生士プログラムへ入学の願書を出す前に、実際に複数の歯科医院にて歯科衛生士の仕事の見学をする「シャドーウィング」を義務づけている学校も多くあります。シャドーウィングとは、実際のオフィスにて歯科衛生士の診療を見学することにより、仕事の内容や診療環境を学ぶ重要な教育プログラムになります。

一般の歯科医院で勤務する歯科衛生士になるには、歯科衛生士の準学士号(2年制)が必要です。さらに、公衆衛生や研究、教育、ヘルスプログラムなどの仕事に就くには、通常学士号(4年制)または修士号(大学院)が必要となります。

最初から学士号の歯科衛生士プログラムに行く人もいますが、准学士号の歯科衛生士プログラムを卒業し、ライセンスを取得した後、働きながらオンラインプログラムで学士号や修士号の学位を取得する人も多くいます。

これは自分の目的に応じて、歯科衛生士としての仕事の枠を広げる人が多いということだと思います。

歯科衛生士プログラムは、コミュニティカレッジや専門学校、大学などに多く設置されており、アメリカでは300以上が認定されています。

また、卒業後は国家試験や臨床試験、州法の試験など、ライセンスを取得するまでの試験の数も他の医療従職種に比べて多く、決して簡単な道のりではありません。

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歯科衛生士に求められるスキル

そんなアメリカの歯科衛生士に求められるスキルは、全部で6つあります

  1. クリティカルシンキング
  2. コミュニケーション能力
  3. 医療従事者としての責任感
  4. 器用さ
  5. 対人関係能力
  6. 問題解決能力

大まかではありますが、この6つについて紹介します。

① クリティカルシンキング

歯科衛生士は、患者の評価と査定、口腔衛生ケアプランの作成ができなければいけません。

そのため、論理的に考える力と、客観的に行動や思考を分析する力が求められます。

② コミュニケーション能力

歯科衛生士は、口腔内の健康状態や口腔衛生ケアプラン、生活習慣のカウンセリングについての情報を、歯科医師または患者さんと共有する必要があります。

そのため、円滑にコミュニケーションを行う能力が求められます。

③ 医療従事者としての責任感

歯科衛生士は、歯科医師が円滑に患者さんを診断し、治療するための手助けをします。また、歯科衛生士が働く州や治療内容によっては、歯科医師の直接の監督下でなくても、治療を提供することができます。

いずれの場合も、決められた規則や手順に従う必要があるため、医療従事者としての責任を持って働くことが求められます。

④ 器用さ

歯科衛生士は手先が器用でなければなりません。口腔内で治療を行うため、精密な道具や器具などの細かいものを扱う能力が必要とされます。

⑤ 対人関係能力

歯科衛生士は歯科医師と協力して仕事をするため、職場での信頼関係を構築する能力が求められます。

また、患者さんの中でも、特に痛みに敏感な人や歯科治療に対して恐怖心を抱いている人に対しては、細かい配慮や気配りが必要とされます。

⑥ 問題解決能力

歯科衛生士の仕事は、患者さんの口腔衛生を維持または改善することです。そのためには、口腔衛生ケアプランを作成し、それを実現できる能力が必要です。

アメリカの歯科衛生士の勤務実態

2021年3月の米国労働局の統計によると、現在約207,190人の歯科衛生士がアメリカで働いています。そして、そのうちの約95%を占める196,190人が歯科医院で勤務しているといいます。

多くの歯科衛生士は、週3〜4日、1日8時間という勤務時間で働いています。一般的には1時間ごとに1人、すなわち1日に8人の患者さんを診ることになります

もちろん週40時間で働く人もいますが、仕事を長く続けるつもりなら週に30時間以上働くのはすすめないというのを、歯科衛生士仲間からよく聞きます。

2020年度のアンケート調査によると、歯科衛生士の71.3%が週35時間以下の勤務と回答し、週40時間以上働くと回答した人はたった3.3%しかいなかったようです。

歯科衛生士の1週間あたりの勤務時間(『RDH Magazine』を元にdStyle編集)
歯科衛生士の1週間あたりの勤務時間(『RDH Magazine』を元にdStyle編集)

また、米国労働局は歯科衛生士の半分以上がパートタイムで働いていると述べています。

パートタイムで働く歯科衛生士の中には、2つの歯科医院をかけもちして働いているという方もいます。

さらに、アメリカでは正社員やパートの他にも、「派遣で働く」という選択肢があります。

歯科医院に勤務する歯科衛生士が急病や休暇、産休などで休む場合に、1日から数ヶ月の間、派遣として働くというスタイルです。

歯科医院がこのような派遣制度を使うことで、歯科衛生士が急に休んでしまっても、患者さんのアポイントをキャンセルする必要がなくなります。

アメリカでは歯科衛生士の予約は6ヶ月先まで埋まっていることが多いのですが、産休などで長期間休む必要がある場合も、患者さんのメインテナンススケジュールを変更する必要がありません。

これは、アメリカでは歯科衛生士の仕事が統一されていて、どこの歯科医院でも同じように働くことができるからだと考えています。

給与面について

2021年のDentalPostの統計によると、週に32時間以上の勤務を行う正社員の歯科衛生士の給与は、4〜8万ドルが72%を占め、年間7万ドル以上が43%、年間8万ドル以上が21%という結果がでました。

ちなみに、米国労働局の統計によると、アメリカの世帯年収の平均値は2020年で 6万7,521ドルです。

また、同調査における歯科衛生士の収入満足度は、2020年度の調査と比べ30%も上昇していました。

この理由として考えられるのは、新型コロナウイルスの影響で、全体の8%の歯科衛生士が退職し、歯科界全体が歯科衛生士不足になったことから、歯科衛生士の給与が以前よりも上がっていることです。

コロナ禍になる前は、2020〜2030年の間に歯科衛生士の数が6〜11%伸びると予想されていましたが、現在は歯科衛生士不足ということもあり、さらに伸びると考えられています。

そのため、多くの歯科衛生士科では受験希望者が増えているそうです。

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歯科衛生士の今後のキャリアパス

先述の通り、アメリカの歯科衛生士は一般歯科での勤務以外にも、公衆衛生や研究、教育、ヘルスプログラムなどの仕事に就くことができます。さらに、この他にも専門家として成長する多くのキャリアパスがあります
(参照:グリフィス友美が解説!アメリカの歯科衛生士事情 #01 歯科衛生士学校編

これから活躍が期待されるミッドレベル・プロバイダーのデンタルセラピストや、最近では口腔筋機能療法のセラピストも歯科衛生士のキャリアパスとして挙げられています。
(参照:グリフィス友美のアメリカ歯科界ニュース #01 アメリカで普及中!デンタルセラピストとは

また、歯科衛生士になってから歯科医師を目指す人も多くいます。私の同級生も、卒業後に歯科衛生士として働きながら歯科医師を目指しました。

いろいろな経験を得て、自分の理想に近づくためのキャリアパスが多くあるというのは、とても魅力的な職業といえるのではないでしょうか。

参考文献:
U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICS(2021)『Occupational Employment and Wages, May 2021』
RDH Magazine(2019)『The State of the RDH Career in 2020』
DentalPost(2021)『Age & years of experience』

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