これまでの連載では、人財育成やその環境についてお話しさせていただきました。
今回は人財育成の中で私がもっとも難しいと考える「人との関わりについて」です。
職場にはさまざまな職種や、年齢の違う方々が集まっています。さらには性格や育った環境が違うことから、ものの見方→捉え方→考え方も、多種多様かと思います。
誰しもが、同じクリニックに勤務するスタッフに対して、自分との違いを感じたことがあるのではないでしょうか。
そのような職場環境の中で、教育的指導として助言や注意をする機会が、日常的にあるかと思います。もちろん、私にもたくさんあります。
でも、ここでちょっと思い返してみてください。
ご自身が行った『助言や注意』を、相手は受け入れてくれていますか。
つい先日、友人の歯科衛生士との会話にも、このような内容がありました。
「後輩の歯科衛生士を注意したが、まったく響いていない。注意したことがなおらない。」ということでした。
私にも同じような経験がたくさんあります。
後輩への指導後に「話を聞かない。なおらない。何度目。」と感じ、イライラして諦める。この悪循環を繰り返してしまうのです。
しかしこれでは、後輩にとっても私自身にとっても最悪の結果となってしまいます。
でも、今は違います。このときの自分を振り返ると、「なんて自分勝手なこと」をしていたのだろうと思い、恥ずかしくなります。
みなさんは『助言や注意』をされる相手の、ものの見方→捉え方→考え方について考えてみたことはありますか。
私はものを伝えるときは、「伝える」という自分の労力やそれに費やす時間、そして相手のこと、お互いのこと考えて、『伝え方=相手に合わせる』を熟慮し、『今=タイミング(相手の心が開いているとき)』というチャンスを逃さないようにしています。
この積み重ねで、後輩への指導やスタッフへの伝達がとても楽になりました。
現在勤務しておりますクリニックでも、教育係のスタッフが上記内容で何回も悩んでいる姿を見ています。
ここで、彼女にしたお話をご紹介させていただきます。
童話で学ぶ、相手に伝わる指導のポイント
みなさんは「北風と太陽」という物語をご存じですか。
「北風と太陽」は、イソップ童話のひとつで、物事に対して厳罰で臨む態度と、寛容的に対応する態度の対比を表す言葉として用いられることもあります。
物語では、北風と太陽が旅人の上着を脱がすことができるかで、力比べをしようとします。
- 北風が力いっぱい吹いて、旅人の上着を吹き飛ばそうとします。しかし、寒さを嫌った旅人が上着をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができませんでした。
- 次に、太陽がさんさんと照りつけました。すると旅人は暑さに耐え切れず、自ら上着を脱ぎました。
この勝負は太陽の勝ちとなりました。
このことは、手っ取り早く乱暴に物事を片付けるよりも、ゆっくり着実に行う方が最終的には大きな効果を得ることができる。
また、冷たく厳しい態度で人を動かそうとしても、かえって人は頑なになってしまいますが、暖かく優しい言葉をかけ見守ることで、人は自分から行動してくれるという組織行動学的な視点もうかがえます。
組織行動学とは組織(クリニック)の目標を実現するために、個人が「人=スタッフ(仲間)」や「組織=クリニック」に影響を与える、個人行動や集団行動の取り組みのことです。
しかし、この「北風と太陽」には、もう一つの物語があることをご存じでしょうか。実はこの後、北風と太陽がもうひと勝負するのです。
つづいての物語では、北風と太陽が旅人の帽子を脱がすことができるかで、力比べをします。
- 太陽は旅人の帽子を脱がせるために、暑い日差しを降り注ぎます。しかし、旅人は日差しを遮るために帽子を深くしっかりとかぶってしまいます。
- 北風は激しく冷たい北風で、帽子を吹き飛ばしてしまいました。
この勝負は、北風の勝ちとなりました。
このように、タイミングやスタッフの性格によっては、厳しい言葉をかける方が伝わることもあるのです。
私は教育とは相手あってのことであり、相互のやり取りからお互いが学び合うことだと思っています。
この物語から私が学んだことは、目的を達成させるためには、相手の意をくまなくてはならない。
すなわち、相手に伝わる褒め方・叱り方をしなければ何も伝わらない、ということです。
教育係の彼女は神妙な顔をして、私の話を聞いていました。
そして「私は北風にしかなれない。後輩の〇〇さんに申し訳ない」と言いました。
私は笑いながら「大丈夫だよ。その気持ちが太陽だよ」と伝えました。
この物語は、私が人との関わり方を学んだ一例ですが、このことをきっかけに相手のことを思い、考える癖がつきました。
たとえ新人であっても、職種の違う方であっても、クリニックにとっての大切な人財ということを忘れずに教育的指導ができると良いですね。
毎年年末には、一年間頑張った自分へのご褒美に、旅行に行っています。
今年のご褒美は残念ですが、見送ることにしました。
1日でも早く、安全に好きな時に、好きなところに行ける平穏な日々が過ごせるのを望んでおります。
チーフ歯科衛生士の流儀
series1.医院のルールづくり
part1.働きやすい職場環境について考える
part2.あったら良いな、こんなルール
part3.ルールの活用方法
series2.スタッフ育成のポイント
part1.新たな仲間を受け入れる準備はできていますか?
part2.こんな質問にどう答える?「教育システムはありますか」
part3.相手に伝わる褒め方・叱り方