みなさん、こんにちは。歯科衛生士歴15年のYota Morisakiです。
現在は訪問歯科で働きはじめ、6年ほどになります。
訪問歯科の現場では、今までの一般歯科で行っていたやり方がまったく通用しないことがたくさんあります。
前回の記事はこちら
vol.1 乾燥痰の除去に苦戦した新人時代のエピソード
vol.2 施設に入居している患者さんならではのエピソード
vol.3 歌によるコミュニケーションの重要性を学んだエピソード
vol.4 患者さんとの距離感について考えさせられたエピソード
この連載を通して、私が訪問歯科の現場で日々感じることや、訪問歯科で働く歯科衛生士、また診察する患者さんやご家族の等身大の姿を知ってもらえると嬉しいです。
歯科衛生士に口腔ケアを依頼する二つのパターン
私は、訪問歯科において、患者さんやそのご家族が歯科衛生士に口腔ケアを依頼するパターンは、大きく二つあると思います。
一つ目は、口腔内のことまで手が回らず、歯科衛生士にケアしてもらいたいというパターン。二つ目は、普段からきれいにケアしているけれど、プロの目でも確認してもらいたいというパターンです。
今回は、この対照的といえる二つのパターンにまつわるエピソードをご紹介します。
口腔ケアまで手が回らないご家族
当時、私が担当したBさんという男性の患者さんは、なんとか歩行できる程度の運動能力で、ブラッシングについても十分にできていないところが多々ありました。
そのため、Bさんの口腔ケアはご家族に行ってもらった方が良いのではと感じていたのですが、Bさんのご家族は大家族で、そこまで手が回っていないような印象でした。
しかし、お孫さんから「おじいちゃん、おじいちゃん!」と話しかけられるような場面を見ると、とてもご家族から愛されている様子が伝わってきましたし、衣食住に関するケアも行き届いていました。
私の訪問は週一回でしたが、おそらくBさんのブラッシングもその週一回のみということも少なからずあったと思います。
一般歯科であれば、ご家族に「きちんと磨いてくださいね」と伝えます。しかし、私は迷った結果、あまりそういったことは伝えず、「私がきますので大丈夫ですよ!」と言っていました。
ここで私が「磨いてください」と言っても、ご家族はおそらく手が回らないだろうし、追い詰めるだけになってしまうのは避けたいと考えたからです。
このように訪問歯科の現場では、歯科の優先順位についてよく考えさせられます。
患者さんが病気の時はとにかく命が優先です。食事を摂らなければ身体は弱りますし、おむつは一日数回替えなくては皮膚がただれるでしょう。口腔ケアよりも睡眠や着替えの優先度の方が高くなることがあるのは当然のことだと思います。
口腔ケアが行き届いていないことによる誤嚥性肺炎にも命の危険はありますが、人によっては、毎日「命の危険があるから、命の危険があるから」と思って口腔ケアをするのは苦痛かもしれません。
ご家族の人柄や余裕を見て、必要ならアドバイスをするくらいの感覚がちょうど良いようです。
口腔ケアに対してとても神経質になるご家族
また、Bさんとは対照的に、「この方、歯科衛生士がケアにくる必要あるかな…」と思うぐらい、口腔内がきれいな方もいます。
この場合、旦那様が若くして倒れられ、奥様が一生懸命ケアをしているというケースが多いように思います。「そんなに神経質にならなくても大丈夫だって…」という旦那様の声が聞こえそうなくらいの熱心さなんです。
そういったご家族に対しては、「おきれいにされてますね!」と声をかけるようにしており、「そんなにやらなくて大丈夫ですよ」というようなことは言いません。
こういう患者さんを見ても、「ご家族に大切にされているんだな」と思います。
ご家族が大切に思っている気持ちが伝われば良い
介護が介在しない家族関係であっても、愛情の表現方法はさまざまです。
介護する側される側となれば、それはなおさら多岐にわたるのだろうと思います。
訪問歯科の現場では、患者さん自身のことを大切に思っているというご家族の気持ちがちゃんと感じられれば、それだけで良いのではないかと感じます。
また、私たち歯科衛生士は、それぞれの現場によってお手伝いできること、必要とされていることを十分に理解し、サポートすることが望まれているのかもしれません。
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訪問歯科で働いていると、患者さんの少しの変化や反応を感じとれる瞬間にたくさん出会えます。
むずかしく感じることもたくさんありますが、それぞれの患者さんにとっての貴重な瞬間に立ち会えて、一瞬も目が離せない、そんな訪問歯科の現場が私は大好きです。
ご興味をお持ちの方は、ぜひ訪問歯科の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
訪問歯科の現場から
vol.1 乾燥痰の除去に苦戦した新人時代のエピソード
vol.2 施設に入居している患者さんならではのエピソード
vol.3 歌によるコミュニケーションの重要性を学んだエピソード
vol.4 患者さんとの距離感について考えさせられたエピソード
vol.5 ご家族が患者さんを大切に思う気持ちが伝わるエピソード