乳歯が鍵!健康なお口育成アプローチ法 #05 乳歯のうちにできること

こんにちは。歯科衛生士の古家と申します。

私は小児期の矯正(顎顔面矯正)を行う歯科医院で小児専門歯科衛生士として従事し、今は前職の経験を活かして一般歯科にて勤務しています。

この連載では、これまで私が学んできた小児の健康な口腔育成を行うためのアプローチ方法についてお伝えしていきたいと思います。

今回は、「3歳から5歳のお口育成アプローチ」についてお伝えしたいと思います。

前回までの記事はこちら

#01 プロローグ
#02 いま求められる子どもたちへのアプローチ
#03 乳歯萌出前編
#04 「イヤイヤ期」との付き合い方

乳歯が鍵!健康なお口育成アプローチ法 #05 乳歯のうちにできること

心身ともに変化がめまぐるしい3歳児

3歳頃は、心や身体の成長が著しい時期です。

自分で歯を磨くことができるようになったり、着替えられるようになったりと、自分のことが一通りできるようになります。オムツを卒業できるのもこの頃が多いようです。

また、保育園や幼稚園に通いはじめることで社会性が育ち、会話ができるようになったり、動き回ることで安定した食欲が出てきたりと、お子さん自身も親御さんも変化がめまぐるしい時期になります。

同様に、口腔内にも変化があり、乳歯が生えそろうのもこのタイミング。3歳頃にいちばん奥の第二乳臼歯が生えてくると、乳歯がすべて生えそろったことになります。

大きくてしっかりとした臼歯が生えてくることで、すりつぶす力が備わり、食べられるものの範囲もグンと広がります

3歳〜5歳のお口育成アプローチ

6歳頃に乳歯から永久歯への生え変わりがはじまるため、3歳〜5歳頃の期間は乳歯だけの状態で過ごすことになります。

3歳〜5歳のお口育成アプローチについてみていきましょう。

乳歯は永久歯の先導役!まずはう蝕に対する意識改革から

乳歯がすべて生えそろい、食べられるものが増えるのはとても喜ばしいことですよね!

ですが、この時期に注意しないといけないこと。

それはやっぱり…「う蝕」です。

3歳〜5歳頃にう蝕ができやすい場所は、以下の二つの箇所です。

  1. 歯間部
  2. 臼歯部咬合面の裂溝

私たち歯科衛生士であれば、「それならフロスをしてもらおう!」「奥まで磨くように指導しなきゃ!」などと考えるかと思います。しかし、その前にまず親御さんにお伝えしないといけないことがあります

それは、「乳歯だからう蝕になっても大丈夫というわけではない」ということです!

親御さんの中には、「乳歯はどうせ生え変わるから、むし歯になっても大丈夫」と思っている方が少なくありません。

確かに乳歯は生え変わりますが、乳歯がう蝕になったせいで、後から生えてくる永久歯にまでう蝕が移ってしまうことがあります。

また、乳歯がう蝕になって通常よりも早く抜けてしまうと、隣在歯が抜けたスペースに傾斜してしまいます。すると、本来そこに生えてくるはずの永久歯がうまく出てこられなくなってしまって、歯並びに影響が出る場合もあります。

「たかが乳歯」という考え方は危険で、「乳歯の状態が永久歯の未来を決める」といっても過言ではありません。

まずはぜひ、このことを親御さんにお伝えしてみてください。

乳歯の大切さを理解してもらってからブラッシングの指導をすることで、より効果的なう蝕予防に繋がるはずです。

永久歯がガタガタにならないためには「歯間空隙」が重要

もう一つ、この頃に気をつけなくてはならないことがあります。

それは「歯と歯の間に隙間があるかどうか」です!

「歯間空隙」と呼ばれるこの隙間がなければ、後続永久歯が生えるスペースがなくなってしまいます。そのため、永久歯はきれいに並ぶことができず、ガタガタに生えてしまいます。

歯並びがガタガタにならないようにするためには、しっかり食べ物を噛んで顎の骨を大きく発達させることが重要です。

一般的にも「よく噛むこと」は推奨されていますが、よく噛むことで実際に何が起こっているのでしょうか?

物を食べると、歯と歯槽骨の間にある歯根膜が、圧迫されたり緩んだりします。すると、歯根膜や頭蓋骨にある骨芽細胞が刺激され、栄養素を取り込んで顎の骨を増やします。

こうして顎が大きく育つのです。

“ブラブラ足”は大敵!?「噛む」指導における声かけ

「それなら、さっそくしっかり噛んでみよう!」と思う前に、大切なことがあります。

それは「食べるときに足の裏が地面にぴったりついているかどうか」です!

このコラムを読んでくださっているあなたの足裏は、今床についているでしょうか?

実は、噛む力を養うために、食べるときの「座り方」はとても大切なポイントなんです。

ラーメン屋さんやバーのカウンターを思い出してみてください。

大人でも椅子の高さが高くて足が床につかないと、上半身が安定できずにグラグラしたり、前傾姿勢になってしまいなんだかとても不安定になったりしませんか?

食事中に足裏がしっかりと床について安定している場合、足がブラブラしている場合と比べて、咬合力と咬合面積がなんと15%もアップするといわれています。
(参照:倉治ななえ『子育てできれいな歯並びを!―夢は矯正いらず』主婦の友社,2011.

足裏が安定すると腰が安定し、その上にある上半身もまっすぐになります。そのため、臼歯部の咬合が安定し、しっかり噛むことができるのです。

小さい頃には足置きのあるベビー椅子を使用していても、成長してサイズが合わなくなると、大人と同じ椅子を使用するようになり、足がブラブラしてしまうケースはとても多いです。

足をブラブラさせていると、集中力も散漫になってしまい、食事中にぼんやりしてしまったり、遊び食べをしてしまったりする可能性も高まります。

もし、足置きのある椅子が用意できない場合は、足元にちょうど良い高さの台やダンボールなどを置くだけでも、姿勢を十分安定させることができます

噛む力を養うためには姿勢がとても大切であることを理解していただけるよう、ぜひお声かけしてみてくださいね。

乳歯が鍵!健康なお口育成アプローチ法

#01 プロローグ
#02 いま求められる子どもたちへのアプローチ
#03 乳歯萌出前編
#04 「イヤイヤ期」との付き合い方
#05 乳歯のうちにできること