乳歯が鍵!健康なお口育成アプローチ法 #06 永久歯への生え変わり

こんにちは。歯科衛生士の古家と申します。

私は小児期の矯正(顎顔面矯正)を行う歯科医院で小児専門歯科衛生士として従事し、今は前職の経験を活かして一般歯科にて勤務しています。

この連載では、これまで私が学んできた小児の健康な口腔育成を行うためのアプローチ方法についてお伝えしていきます。

今回は、永久歯へ生え変わるタイミングである、「6歳から9歳のお口育成アプローチ」についてお伝えしたいと思います。

前回までの記事はこちら

#01 プロローグ
#02 いま求められる子どもたちへのアプローチ
#03 乳歯萌出前編
#04 「イヤイヤ期」との付き合い方
#05 乳歯のうちにできること

乳歯が鍵!健康なお口育成アプローチ法

乳歯から永久歯への生え変わり

歯科では、6〜9歳の歯列のことを「混合歯列期」とよびます。乳歯が永久歯へと次々に生え変わることで、口腔内が目まぐるしく変化して成長していく時期です。

生えはじめの永久歯は幼若永久歯とよばれ、歯の石灰化が不十分なことや、歯面が粗くやわらかいことから、う蝕になりやすい特徴があります。

6歳というと、ちょうど小学校に入学して自立性がさらに高まる時期にあたりますが、まだまだ保護者による仕上げ磨きは欠かせない時期です。生え変わりのために乳歯がグラグラしていたり、生えはじめの永久歯は背が低かったりと、口腔内の変化によってブラッシングがしづらい状態になっているので、注意して磨く必要があります。

第一大臼歯に要注意!

永久歯の中でも、もっともう蝕にしたくない歯…それはもちろん!「第一大臼歯」です。

このコラムを読んでくださっているあなたも、4本ある第一大臼歯のうちのどこかには何かしらの治療をされているのではないでしょうか。

乳歯列が完成したあと、およそ6歳頃のタイミングで第一大臼歯の萌出がはじまりますが、第一大臼歯は萌出が完了するまでに一年ほどかかります

萌出途中の歯面は歯肉が覆って清掃がしづらいため、う蝕のリスクが高くなってしまうのです。

臨床現場でもクラウンを入れていたり、根管治療をされたりしている方がとても多く、第一大臼歯は日本人がもっとも失いやすい歯の一つであるといわれています。

第一大臼歯はどの永久歯よりも大きく、歯根もしっかりしています。そのため咬合力もすべての歯の中でもっとも強く、噛み合わせの要となる歯です。

美しくて健康的な歯列を目指すためには、この大切な第一大臼歯4本がしっかりと咬合していることが大切なのです。

「現代人は顎が発達していない」って本当?

現代人はやわらかい物ばかり食べているから歯並びが悪い」という話を聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。

現代の食事は昔に比べてやわらかいものが多いため、咀嚼する回数が少なくなり、顎が発達せず、歯が並び切らないというものです。

でもこれって、本当なのでしょうか?

日本大学松戸歯学部の葛西教授によって発表された、興味深い研究発表があります。

葛西教授によると、「縄文人と現代人の下顎骨をCTスキャンした数字を比較した結果、歯列幅は縄文人の方が広かったが、骨体最大幅や骨体基底幅は縄文人、現代人ともほぼ同じ結果でした」というのです。

これはつまり、下顎の大きさは縄文人と現代人においてほぼ差はないという意味です。

では、縄文人と現代人の間で一体何が違うのか?

それは、歯軸の方向です。

縄文人の下顎はがっしりと発達していて、第三大臼歯もまっすぐ上向きに生えて機能しているのに対して、現代人の歯は全体的に内側に倒れこんでいるのです。

縄文人(左)と現代人(右)では、歯軸の方向が異なっている。(引用:ライオン歯科材株式会社『子供たちの歯列成長促進のために “DAY-UPオーラルガム<かむトレーニング>”の臨床活用』)

下顎骨の大きさ自体には大きな差がないにもかかわらず、歯列の幅だけが小さくなっている現代人。

これを葛西教授は、歯本来の役割である「すり潰しながら噛む」という「臼磨運動(グラインディング咀嚼)」が極めて少なくなっているためであると分析しています。

顎骨は上顎が左右に、下顎は奥に向かって発達します。

永久歯は乳歯と比べて一本一本が大きくなり、本数も増えます。そのため、乳歯から永久歯へと生え変わる成長期には、永久歯を受け入れるためのスペース作りが重要となります。

そこで、上下の運動に臼歯の横の動きを加えた「グラインディング咀嚼」は、顎骨の成長を促してくれるため、叢生を予防することができると考えられているのです。

このように、整った歯列を育成するためには、歯ごたえのある食べ物をしっかりと臼歯を使って食べることが大切ということがわかるかと思います。

歯列を良くするためにできること

では、歯列を良くするためには、ただ噛みごたえのあるものを子ども達に食べさせるよう指導するだけで良いのでしょうか?…これはあまりにも強引です。

そもそも、やわらかい食べ物に慣れている子どもたちは噛むための筋肉が発達していないため、かたい食べ物を食べること自体が苦手になっているのです。

ここで注目したいのが、ガムトレーニングです。

ガムトレーニングの指導方法

ガムトレーニングを行う手順は、以下の通りです。

① ガムを噛む

まずはガムをしっかり噛んでやわらかくすることからスタート!
自分で顔に手を当ててもらうことで、口腔の動きを実感できます。

  • 左右差なく噛めているか?
  • 咬筋が動いているか?
  • 大臼歯部まで使って噛めているか?
  • 口唇閉鎖できているか?

② ガムを丸める

口腔全体を使ってガムを丸めましょう。

  • 舌だけでなく、口蓋、歯、頬を使ってきれいな球体にする
  • 口唇は閉鎖したまま行う

③ 咬合した状態でガムを口蓋に押しつける

舌をしっかり動かして鍛えることを意識しながら行います。

  • 舌は前歯に当てないよう意識させる
  • 口唇は閉鎖したまま行う

④ 唾液を嚥下する

唾を飲み込んだ後にはガムが軟口蓋に向かって三角に伸びるのが理想です。

  • 舌は前歯に当てないよう意識させる
  • 口唇は閉鎖したまま行う

ガムを噛むことで口腔や筋肉の使い方を実際に感じ、意識的に使えるようにしていきましょう。

ガムトレーニング

態癖もチェックしよう!

また、この時期は態癖にも気をつける必要があります。

態癖とは、「指しゃぶり」「爪噛み」「舌で歯を押す」など、幼少期によく見られる無意識の習癖のことです。態癖があると歯や顎に余計な力がかかってしまい、口腔内に悪影響をおよぼしてしまいます。

指しゃぶりが悪影響をおよぼすことは広く知られていますが、たとえばテレビを見る方向がいつも決まっているだけでも、実は顎の位置は歪んでしまいます。

他にも、「いつも片方の手で荷物を持つ」、「手の上に顎を乗せて長時間ゲームや読書をする」など、さまざまな癖に顎や体を歪ませる原因が潜んでいます。

悪い態癖がないかどうか、口腔だけでなく全身の状態からチェックし、その癖によって歯列不正を引き起こしてしまう可能性があることを本人とご家族に伝えるようにしましょう。

態癖が見られる場合も、前述のガムトレーニングを行うことで、舌を理想の位置であるスポットに置くことができるようになり、徐々に改善されていきます。

ぜひ、明日からの臨床現場でもお伝えしてみてくださいね。

態癖

参考文献:金沢英作,葛西一貴(2010)『歯科に役立つ人類学―進化からさぐる歯科疾患 』わかば出版

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