チェアサイドの栄養指導 はじめの一歩 第7回 いま話題のナイアシンの代謝産物「NMN」って?

みなさんこんにちは!歯科衛生士の山本典子です。

患者さんとお話していると、みなさん新しいものが大好きで、テレビや雑誌で話題になったものを試してみるという方は意外と多いです。そこで今回からは2回にわたって、最近話題のサプリメント「NMN」と「5-ALA」について解説したいと思います。

今回は、「NMN」についてお伝えします。

「NMN」って何?

NMNはSNSの広告などに出てくることが多い栄養素ですが、とても高価ですし正直「胡散臭い!」と思った方もいるのではないでしょうか?

NMNとは、「ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド(Nicotinamide MoNoncleotide)」の略です。

大雑把にいうと、体内では「ナイアシン」→「NMN」→「NAD+」の順に変換されていくと思ってもらえばわかりやすいかもしれません。

これはつまり、“ナイアシン(ビタミンB3)の代謝産物で、NAD+の前駆体である”ということなのですが、「一体何のこと?」と思いますよね。

ナイアシンは、体内でNAD+あるいはNADPという物質に変換され、多くの反応に必要となる補酵素としての役割があります。

ただ、実際には複雑な経路をたどりますし、ナイアシンからだけでなくトリプトファンからもNAD+が作られる経路があります。

「NMN」が注目されている理由

NAD+は、私たちが体を動かすために必要なエネルギーの元である「ATP」を作るために必要な補酵素ですが、加齢とともに減少し、体の組織の老化や機能の低下、病気を引き起こすことが分かっています。なんと、NAD+は40歳から60歳になるまでの間に最大50%も減少するといわれているのです。

つまり、“体内のNAD+が減ると病気になりやすくなって老化が進んでしまうため、NAD+を作るのに必要なNMNを摂りましょう”ということで、NAD+の前駆体であるNMNが注目されるようになりました。

他に代用できるものはないの?

単純に考えると「NAD+を直接補充すればよいのでは?」と思うかもしれません。しかし、NAD+は補酵素なので、外から摂取してもすぐに分解されてしまいます

とはいえ、NMNのサプリメントは価格が高いので、一つ前段階のナイアシンのサプリメントをたくさん摂った方が安価ですむのでは?と思う方もいるでしょう。

しかし、ナイアシンから作られるNAD+の量は、NMNに比べて少ないことが分かっています。そして、ナイアシンを大量に摂取すると、皮膚が紅潮したり痒みがでたりする「ナイアシンフラッシュ」という現象が起きてしまいます。症状自体は30分程度で治まることがほとんどですが、不快感をもつ方も多いでしょう。さらに、長期間大量摂取を続けると肝障害が起こる可能性もあります。

また、「ナイアシンフラッシュ」が起きないナイアシンアミドの摂取を考える方もいるかもしれませんが、ナイアシンアミドは長寿遺伝子ともよばれる「サーチュイン遺伝子」の活性を阻害する可能性があることが示唆*1されており、こちらもなかなか簡単にはいきません。

このような背景の中、副作用の心配がなく効率よくNAD+を増やせるとして、NMNが注目されるようになったのです。

効果のエビデンスはあるの?

近年行われたマウスでの実験では、NAD+がサーチュイン遺伝子を活性化させ、遺伝子の修復や保護が認められた*2そうです。

ヒトへの臨床試験はまだまだ少ないため、現時点での効果は「わかっていない」ということになります。しかし、糖尿病や脂肪肝とNAD+は関係が深く、NMNの投与により良好な結果も出てきているそうなので、これからの研究が期待されています。

アンチエイジングに関心のある方は、「NMNのサプリメントを買ってみたい!」と思った方もいると思います。しかし、調べてみると値段の高さに驚かれた方も多いのではないでしょうか?最近では少し値下がりしてきた印象もありますが、それでも1ヶ月あたり1万円弱〜数万円のコストがかかります。

また、NMNのサプリメントは、偽物が多く出回っているともいわれています。

某アメリカのサプリメント会社のNMNサプリメントを調査したところ、なんと“有効成分がまったく入っていなかった”という笑えない結果がでたという話もあるほど。NMNサプリメントを摂ってみたいという方は、ご自身が信頼できるメーカーのものを選んでみてください。

NAD+の維持には生活習慣も大切!

最後に、NAD+を維持するために大切な生活習慣のポイントを挙げておきます。

  • カロリーを摂りすぎない
  • ジャンクフードを控える
  • 過度な飲酒を控える
  • 過度の日焼けを避ける
  • 有害金属や有害化学物資などを避ける
  • 運動を習慣化する
  • ナイアシンが豊富な食材を食べる
    (レバー・鶏の胸肉・アボカド・カツオ・まいたけなど)

こうしてみると、「抗酸化・抗糖化の意識」や「適度な運動」が有効であるという、今までのアンチエイジングのための対策と実はほぼ同じなのです。

まずは、日々の生活習慣を見直してみることが大切ですね!

次回は、「5-ALA」について解説します。

参考文献:
*1 松岡耕二,佐々木啓子,ビタミンB3関連分子による生体機能調節. 千葉大学大学紀要. 2020;13.111-117
*2 Akiko Satoh,Cynthia S. Brace,Nick Rensing,Paul Clifton,David F. Wozniak,Erik D. Herzog, Kelvin A. Yamada,Shin-ichiro Imai1,satoh A.et al.cell metab.2013;18:416-430

チェアサイドの栄養指導 はじめの一歩

第1回 歯を守るための栄養指導
第2回 口腔内を診るときのポイント
第3回 口腔内症状と栄養素の関連性
第4回 サプリメントを効果的に使用するには?
第5回 なぜ口腔ケアに乳酸菌?
第6回 意外と知らないコラーゲンの基礎知識
第7回 いま話題のナイアシンの代謝産物「NMN」って?