実録!訪問歯科の現場ってこんなところ vol.5 訪問診療で配慮すべき患者の全身状態

みなさん、こんにちは。歯科衛生士歴16年のYota Morisakiです。現在は訪問歯科で働きはじめて、7年ほどになります。

訪問歯科では、訪問が必要な患者さんに対応するために、業務も一般歯科とは少し違う内容となっています。

本記事では、一般歯科にお勤めの方に向けて、一般歯科と訪問歯科の業務の違いについてお伝えできればと思います。

前回までの記事はこちら

vol.1 業務内容とルール
vol.2 訪問歯科衛生士がかならず持参するもの
vol.3 訪問歯科衛生士の一日の流れ
vol.4 訪問歯科助手の一日の流れ

配慮が必要な状態とは?

歯科衛生士が訪問で口腔ケアを行うときは、全身状態への配慮が必要です。

しかし、外科処置のように出血を伴うわけでも、歯科医師のように麻酔を使うわけでもないため、配慮すべき点は一般歯科や歯科医師による訪問歯科と異なります。

口腔ケアで注意すべき点は?

訪問歯科衛生士は、基本的に全身疾患のある方を対象として口腔ケアを行います。

そのため、すべての状態において注意が必要なのですが、以下の点にはとくに気をつけます。

咳ができるかどうか

咳を出す力のことを「喀出力(かくしゅつりょく)」といいます。気管に何かが入ったとき、喀出力があるかないかは、誤嚥性肺炎のかかりやすさなどに深く関係しています。

何年もお伺いしているうちに喀出力が衰えることもあるので注意が必要です。うがいから清拭に切り替える、頭を高くするなどして対応します。

関節の状態はどうか

長く寝たきりでいる患者さんは、関節が固くなっていることがあります。無理に体位を変えたり、口を開けたりすると痛めてしまう可能性があるため、特に初診の際は注意が必要です。

どのぐらい動かせるのかご家族にお聞きして、できる範囲でケアを行います

転倒に注意

ご高齢になると、誰でも歩行と転倒には注意が必要です。

危ないからといって安易に車椅子での移動に切り替えると、歩行に戻るのがむずかしくなるケースがあるため、職員が見守りながら歩行してもらうことになります。

とくに施設では、車椅子に切り替えた方が職員にとっては楽だと思うのですが、しっかり見守りながら丁寧に歩行移動を支えているケースが多いです。

レクリエーションを行うホールから自室へ移動するときは、歯科衛生士が移動に付き添うため、転倒を防ぐにはどのように支えたら良いかを学んでおくと心強いです。

感染性の細菌に注意

まれに「抗生物質の効かない黄色ブドウ球菌に感染して…」という方など、感染性の疾患をもっている方がいます。

その方に症状が出ていなくても、他の患者さんに感染させてしまう可能性があるため注意が必要です。

専用のマスクや防護衣を着用して口腔ケアにあたります。

「この全身疾患に注意!」というのはないけれど…

基本的に何かしらの疾患がある方を対象に口腔ケアをしているため、とくにこの疾患には注意!ということはありません。

しかし、脳血管疾患のある患者さんで、一人とても印象的な方がいました。その方はコミュニケーションはとれるのですが、ときどき攻撃的になってしまう方でした。

詳しくお話を聞くと、「脳血管疾患の後遺症で空間の認知がうまくできず、体位を動かすときに高いところから落ちる感覚がある」とのことでした。

そのため、体位を動かすときに攻撃的になってしまったようです。

今まで聞いたことがない症状だったため驚きましたが、特定の疾患に注意するというよりは、患者さん一人ひとりの状態に応じた注意が必要だと実感した出来事でした。

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いかがでしたか?

今回は訪問歯科の現場の実際として、歯科衛生士がどのようなことに注意して口腔ケアを行っているのかについてご紹介しました。

訪問歯科での口腔ケアには、この他にも注意すべき点がたくさんあります。ご興味をおもちの方は、ぜひ訪問歯科の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。