みなさん、こんにちは。歯科衛生士歴15年のYota Morisakiです。
現在は訪問歯科で働きはじめ、6年ほどになります。
訪問歯科の現場では、今までの一般歯科で行っていたやり方がまったく通用しないことがたくさんあります。
前回までの記事はこちら
vol.1 乾燥痰の除去に苦戦した新人時代のエピソード
vol.2 施設に入居している患者さんならではのエピソード
vol.3 歌によるコミュニケーションの重要性を学んだエピソード
vol.4 患者さんとの距離感について考えさせられたエピソード
vol.5 ご家族が患者さんを大切に思う気持ちが伝わるエピソード
vol.6 誤嚥性肺炎について考えさせられたエピソード
vol.7 食べられるものが増える喜びを感じたエピソード
この連載を通して、私が訪問歯科の現場で日々感じることや、訪問歯科で働く歯科衛生士、また診察する患者さんやご家族の等身大の姿を知ってもらえると嬉しいです。
口腔内から読み取れる全身状態のこと
口腔カンジダ症や歯周病は、体調の悪化とともに悪化する傾向にあります。それは有病者や寝たきりの方にも顕著に現れます。
そのため、毎週ケアに訪れていると「あれ?この患者さんは体調を崩しそうかな?」ということや、「最近調子がいいんだろうな」ということが、口腔内を診るだけでわかるようになってきます。
患者さんそれぞれの「状態のサイン」
全身状態を現すサインは、口腔カンジダ症や歯周病だけでなく、多岐に渡ります。
舌が黒っぽくなる患者さんや、とにかく膿が溜まる方、食物残渣が多くなる方など、個々の患者さん特有の症状として現れることが多く、最初は気づきにくいケースもあります。
何度かケアするうちに「あ、この前の口腔内の状態は、この体調不良の前兆だったのか」と、なんとなくわかってくるのです。
「なんか節々が痛いな」と思っても風邪をひかない場合もあるように、「この状態だから、かならずこうなる!」というわけではありませんが、長年ケアしていると傾向のようなものとして感じられます。
「回復していくかもしれない!」と思う瞬間
Kさんという患者さんは、体調が悪いと舌に変化が現れる方です。
「なんか舌の色が変だな…」と思ってケアを行った時は、まだそれが体調不良のサインだとは気づきませんでした。口腔カンジダ症のように舌が真っ白であるというような、わかりやすい症状でもなかったのです。
Kさんは私が訪問した翌日に、旅行を控えていました。とても楽しみにしていて、「明日出かけるんだ!」と嬉しそうに話してくれました。
しかし旅行から帰宅後、一気に体調が悪くなり、ベッドから起き上がれない状態になってしまったのです。
ご家族もびっくりされている中、私はケアのために訪問しました。
「お元気だったのにな……」と思いながらベッド上のKさんの口腔内を診ると、前回より舌の色が何だか少し良くなっている気がします。
「あれっ、これはもしかして前回の舌の状態は体調不良のサインで、今回良くなってきてるということは、全身状態も上向いてくるのかもしれない」
そう思いましたが、これが思い過ごしだった場合、ご家族をがっかりさせてしまうので、「口腔内の状態は悪くない」ということだけをうまく伝えて帰社しました。
その後Kさんはめきめきと回復し、次の旅行の話までできるようになりました。それに伴い舌の色も健康的なピンク色に戻っていきました。
私はそれ以来Kさんのケアを行う時は、舌の色を指針とするようになっています。
伝え方がむずかしい!歯科衛生士としての考え
「体調が良くなりそう」と感じても、確実でないことを伝えるのはむずかしく、私の心の中だけにしまって喜んでいることが多いです。
しかし、「体調が悪くなりそう」というサインは、今後の注意喚起として伝えることができるため、それなりの傾向がつかめていればお話しすることもあります。
患者さんの全身の健康管理と維持において「歯科衛生士として役に立てると嬉しいな」と思いながら、日々を過ごしています。
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訪問歯科で働いていると、患者さんの少しの変化や反応を感じとれる瞬間にたくさん出会えます。
むずかしく感じることもたくさんありますが、それぞれの患者さんにとっての貴重な瞬間に立ち会えて、一瞬も目が離せない、そんな訪問歯科の現場が私は大好きです。
ご興味をお持ちの方は、ぜひ訪問歯科の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
訪問歯科の現場から
vol.1 乾燥痰の除去に苦戦した新人時代のエピソード
vol.2 施設に入居している患者さんならではのエピソード
vol.3 歌によるコミュニケーションの重要性を学んだエピソード
vol.4 患者さんとの距離感について考えさせられたエピソード
vol.5 ご家族が患者さんを大切に思う気持ちが伝わるエピソード
vol.6 誤嚥性肺炎について考えさせられたエピソード
vol.7 食べられるものが増える喜びを感じたエピソード
vol.8 口腔から全身の変化を感じたエピソード