こんにちは、お砂糖博士®︎です。おさトーークの時間がやってまいりました。
このコラムでは、みなさんの身近な「お砂糖」について、お砂糖博士®︎が自由に語ります。
お砂糖を摂り過ぎ→むし歯は小さな子どもだって知っていますが、もう一歩二歩、深いお砂糖のことをお伝えします。
明日の臨床に直接役に立つか分かりませんが、明日の昼休みの雑談には役に立つでしょう(笑)。
前回までのおさトーークはこちら
No1.あなたは一日に何gの砂糖を食べていますか?
No2.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!菓子類編
No3.清涼飲料編 ①異性化糖について
No4.清涼飲料編 ②炭酸飲料について
No5.パン編
No6.乳製飲料の砂糖量
No7.フルーツの“甘さ”は歯や体に良いの?雑学編
No8. バナナ、りんご、みかんに含まれる糖類は?100%ジュースの秘密
「今、女性に気をつけてもらいたいのは、蜂蜜(ハチミツ)、黒蜜(クロミツ)、メープルシロップの“三蜜”です!」…なんて、冗談はさておき。
「ハチミツはお砂糖の代わりに使ってもいいですか?」「ハチミツは砂糖より体に良いですよね?」という質問を、半ばすがるような勢いで受けることがあります。
今回はこの“三蜜”(?)の筆頭である、私たちの生活で身近な「ハチミツ」についておさトーークしたいと思います!
ハチミツと砂糖は同じ甘い味なのに、何が違うの?
ハチミツは、砂糖よりも複雑な味と香りがするとご存じだと思います。
ハチミツには甘い「糖類」だけでなく、タンパク質やビタミン、カルシウム、カリウム、鉄などのミネラルも微量に含まれており、これらがハチミツの味の由来となっています。
「糖類」以外のタンパク質や有機酸、ミネラル等の成分は主に花粉由来のものです。ミツバチが花蜜(ハナミツ)を運ぶとき、体にたくさんの花粉がくっついているので、ハチミツにも花粉が含まれるのです。ハチミツ1g中には、数万〜数十万個もの花粉が含まれています。
味や香り、栄養成分の微妙な違いは、各花の花粉の違いが大きく影響しているところは興味深いですね。
このように砂糖と違って、微量の多様な成分が含まれていることが、ハチミツの大きな特徴です。今回はおさトーークということで、「糖類の違い」の観点から解説したいと思います。
成分について詳しく知りたい方は、以下の資料をご覧ください。
はちみつの栄養成分表示(日本食品標準成分表2020年版(八訂))はこちら
ハチミツと砂糖における糖類の違いとは?
上の図の円グラフをご覧ください。
砂糖は「ショ糖」ともいい、ブドウ糖と果糖がくっついた「二糖類」がほぼ100%を占める食品です。砂糖の中でもよく使用される白砂糖などは、「ショ糖(炭水化物)」以外は何も含まれていないといってもよいでしょう。
一方ハチミツは、糖類(炭水化物)73.2%と水分20.0%の他に、タンパク質や有機酸、ビタミン、ミネラルなど、多彩な成分が合計6.8%程度含まれています。
実際にはハチミツを作るハチの種類や、原料となる花の種類、季節、時期などでバラツキがありますが、ハチミツの成分のうち約80%が糖類とその他の栄養成分、約20%が水分という大まかなイメージをもっておくとよいでしょう。
ハチミツと砂糖では含有する糖の種類が全然違う!?
先ほど、砂糖はショ糖のみで構成されていると説明しました。
それでは、ハチミツに含まれる「糖類」とはどのようなものなのでしょうか?
下の図の円グラフを見てみましょう。
ハチミツ100g中の糖類の内訳は、ブドウ糖(32.3g)、果糖(38.6g)、ショ糖(0.2g)、麦芽糖(1.5g)となっています。糖類の主成分はブドウ糖と果糖(計70.9%)であり、ショ糖はわずか0.2%しかないところがハチミツの特徴です。
「砂糖とハチミツではどちらが体に良いのか?」という疑問にお答えする前に、まずは「どうしてこのような糖類の比率になっているのか?」という観点で分析してみましょう。ここに、みなさんがハチミツを食べる際に、どうしても知ってもらいたい「蜂蜜(ハチミツ)の秘密」があるのです!
ハチミツはミツバチたちの汗と涙の結晶!
花蜜(ハナミツ)という言葉について、なんとなく聞いたことがあっても、詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか?
花蜜とは、漢字の通り「花の蜜」のことです。
下の図の通り、花蜜(ハナミツ)はショ糖(シュークロース)を主成分とし、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フラクトース)を少量ずつ含みます。また、水分を65.4〜80.0%含むのも特徴です。
巣に溜めた花蜜の主成分であるショ糖は、ミツバチの唾液中のインベルターゼという酵素によって、ブドウ糖と果糖に分解されます。また、ミツバチの羽で起こす風で余計な水分を飛ばし、糖類濃度を高めることで、ハチミツの保存性を高めています。
これって、ものすごい労力だと思いませんか?
一匹のミツバチが生涯(約40日間)をかけて作りだすハチミツは、なんとティースプーン一杯程度。私たちはそれを一瞬で食べてしまいます。
今度ハチミツを食べる際には、このミツバチたちの努力を思い浮かべて感謝してみると、より味わい深いものになるのではないでしょうか。
価格は砂糖の50倍!?昔も今も貴重なハチミツ!
ミツバチが人生をかけて一生懸命集めたハチミツは、大変貴重なものということがわかりました。
ここで、ハチミツの歴史を振り返ってみましょう。ハチミツの貴重がさらにわかると思います。
砂糖の精製や、原料であるサトウキビの栽培は、約2,400年前から行われていたとされています。一方ハチミツの採集は、それよりもはるか昔の紀元前5,000年頃から開始されていたようです。
砂糖が存在しなかった当時、ハチミツは大変貴重で高価なものであり、ほとんどの人は口にする機会が少なかったのではないかと想像できます。
現代では、誰もが気軽にハチミツを入手できるようになりましたが、それでも貴重であることに変わりはありません。
インターネット上の情報によると、ハチミツは1kgあたり2,500円〜10,000円程度、マヌカハニーなど海外の高級ハチミツの場合は250gで12,960円程度するものもあります。砂糖の場合は1kgあたり約200円で購入できるので、ハチミツの価格は砂糖の10〜50倍の価格です。
同じ「甘味料」として考えると、ハチミツはどんな砂糖よりも高級な甘味料ということになります。これは、それだけ貴重な食品であるということの表れなのです。
砂糖よりもハチミツの方が歯や体に良いって本当?
これまで解説したように、ハチミツの主成分はブドウ糖と果糖です。主成分が糖類である以上、砂糖と同様に摂り過ぎればむし歯や、肥満、その他の生活習慣病の原因になることは間違いありません。
ただし、「健康を害するからハチミツを食べるな!」と声を上げる必要があるかというと、僕はそうは思いません。なぜなら、ハチミツの消費量はごくわずかだからです。
令和3年度の国内のハチミツ消費量は、約5万トンです。
このうち国産ハチミツ2,700トン(約5%)、輸入ハチミツは4万7,100トン(約95%)と、ほとんどが輸入品であり、輸入品の66%は中国産です。国産ハチミツの99%は家庭で使用されているので、逆にいえば加工食品のお菓子などで使われている業務・加工用のハチミツには、ほとんど安価な輸入品が使用されていると考えて差し支えないようです。
ちなみに、農林水産省の資料*4によると、令和元年の砂糖・異性化糖・加糖調整品(砂糖が添加されている輸入品の食品)などの合計の国内年間需要量は約293万トンであり、ハチミツの消費量5万トンと比較すると約58.6倍です。
ハチミツはもともと貴重な食品なので、毎日大量に摂取しているケースはあまりないでしょう。ほとんどの方が嗜好品として時々摂取している程度かと思うので、注意喚起もそこまで必要ないと考えています。
教えて!お砂糖博士®︎Questionコーナー
気をつけてもらいたい噂の「三蜜」の違いですね!今回特集したハチミツの糖類は、ブドウ糖や果糖が主成分とお話ししました。
一方で、黒蜜は「サトウキビ」が原料、メープルシロップは「サトウカエデ」という木から採取されます。どちらも植物が直接の原料であり、糖類はショ糖が主成分となります。
また、水分量の違いもあり、ハチミツよりも水分がやや多いメープルシロップはパンケーキに塗りやすいという特徴があります。
3つとも成分に違いはあれど、基本的には同じ糖類で構成されているため、歯や体に対してどれが良いというのはありません。一つ言えるのは、これらの「三蜜」とはあまり密になりすぎない!ということです。笑
マヌカハニー、とても流行っていますね。
日本マヌカハニー協会によると、抗菌成分MGO(メチルグリオキサール)がブドウ球菌や大腸菌の繁殖を抑える効果があるとされています。
しかし、これはあくまで培養地の実験上の結果であり、口腔や腸管など各器官に超複雑な細菌叢を抱える人体の中で、確実に効果があるかは証明するのはむずかしいのではないかと思います。
マヌカハニーしかり、一般的なハチミツにも一定の殺菌作用はあるにせよ、80%は糖類です。そのため、寝る前に歯に塗ってそのまま寝るなんてことは絶対にしないようにしてださい。
もし、高級マヌカハニー(12,960円/250g)を歯磨剤一回分(約1g)を口腔内に塗布したら、一回あたり51.8円という計算になりました。マヌカハニーを毎日続けるには経済力も必要です。笑
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ちなみに、今ではハチミツの代名詞といっても過言ではない「くまの◯ーさん」。彼は、ご存じの通りハチミツが大好物です。
しかし、実は、「クマはハチミツ好き」というイメージはあくまでアニメの話。
本物のクマはハチミツよりも、タンパク質豊富で栄養価の高い「ハチノコ」が大好物であり、ハチミツはそのついでに食べているそうです。◯ィズニーのイメージがありますので、さすがに「◯ーさん」にハチノコを食べさせることはできないということなのでしょう。
山田養蜂場健康科学研究所の情報を見ても、ハチノコの栄養の高さには目を見張ります。
(参照:蜂の子 郷土料理に息づく医食同源、貴重なタンパク源-山田養蜂場 健康科学研究所HP)
もしあなたが、「ハチミツ」にハマって過剰摂取している稀な方に出会う機会があれば、こんなアドバイスはどうでしょうか?
「クマを見習って、ハチミツをやめてハチノコにしてみてはいかがですか?」
…なんて、言えるわけないか。笑
参考文献:
*1 日本食品標準成分表2015年版(七訂)
*2 越後多嘉志, ハチミツの科学, 調理科学,47-53,26,1,1,1993
*3 養蜂をめぐる情勢(農林水産省 生産局 畜産部)
*4 砂糖及び加糖調製品をめぐる現状と課題について(農林水産省)
お砂糖博士®︎の雑談コラム「おさトーーク」
No1.あなたは一日に何gの砂糖を食べていますか?
No2.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!菓子類編
No3.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!清涼飲料編 ①異性化糖について
No4.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!清涼飲料編 ②炭酸飲料について
No5.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!パン編
No6.ヤクルトは健康?乳製飲料の砂糖量
No7.フルーツの“甘さ”は歯や体に良いの?雑学編
No8. バナナ、りんご、みかんに含まれる糖類は?100%ジュースの秘密
No9. ハチミツは砂糖よりも体に良いって本当?