グリフィス友美のアメリカ歯科界ニュース#08 新しい歯科診療のスタイル「モバイルデンティストリー」って?(後編)

こんにちは、アメリカで歯科衛生士として働いているグリフィス友美です。

みなさんは、「アメリカ×歯科業界」と聞いて何を思い浮かべますか?

最新の情報が飛び交っていそう、歯科医療従事者のレベルが高そう、などさまざまかと思います。

本連載では、みなさんに最新のアメリカの歯科事情をお届けできればと思います。

今回は前回に引き続き、アメリカで注目を集めている「モバイルデンティストリー」についてお伝えします。

前回までの記事はこちら

#01 アメリカで普及中!デンタルセラピストとは
#02 アメリカにおける歯科衛生士の魅力とは
#03 アメリカの予防システム「プロフィラキシス(プロフィー)」とは
#04 歯肉炎に対する新たな治療「ジンジバルスケーリング」とは
#05 アメリカにおける睡眠時無呼吸症候群へのアプローチとは(前編)
#06 アメリカにおける睡眠時無呼吸症候群へのアプローチとは(後編)
#07 新しい歯科診療のスタイル「モバイルデンティストリー」って?(前編)

モバイルデンティストリーと州の歯科診療法

前回の記事で、アメリカの歯科診療法は州によって大きく異なるとお伝えしました。
(参考:グリフィス友美のアメリカ歯科界ニュース#07 新しい歯科診療のスタイル「モバイルデンティストリー」って?(前編)<前編を公開後にリンクを差し込みいたします>

公衆衛生の活動ではなく、通常の歯科医院で歯科衛生士が予防処置を目的としたモバイルデンティストリーを行う場合は、その州の歯科診療法と歯科医師との関係(監督が必要かどうか)を基準に活動を行います

各州により詳細は異なりますが、カリフォルニア州やメイン州、オレゴン州などでは、歯科衛生士が歯科診療所を所有し、歯科医師から独立して働くことができます。そのため、歯科医師の監督を必要としません。

また、ミネソタ州やアリゾナ州、アーカンサー州などでは、歯科医師がオフィスに居なくても歯科衛生士が行える歯科診療があります。

しかし一方で、州によっては、どのような場合でも歯科医師による監督のもとでなければ、歯科衛生士による診療を行えないところもあります。

このように、歯科衛生士が独自にモバイルデンティストリーを行う場合、歯科医師による監督や協力が必要かどうかや、必要な場合にどのような種類の協力が必要かを判断することが重要となります。各州によって協力の形態は異なり、定義もさまざまであるためです。

州によっては、書面による同意が必要であったり、歯科衛生士が歯科診療を行う前に歯科医師が患者を診察する必要があったりします。また、ミネソタ州とアリゾナ州、アーカンソー州をはじめ、電子技術による歯科医師とのコミュニケーションを認めている州もあります。

歯科衛生士の監督に関してもっとも厳しい州では、歯科医師による現場での監督が必須です。たとえばアラバマ州では、歯科衛生士が患者さんを治療するときは常に歯科医師が現場で監督することが義務づけられています。

このように、モバイルデンティストリーを行うにあたり、まずは自分が働く州において、どのような形態で歯科医師の監督や協力必要なのかを知る必要があるのです。

「どのような環境で、どのような患者さんを対象に歯科衛生士としての歯科診療行為を行いたいのか?」「それには歯科医師との連携が必要なのか?」といった点を考慮し、該当する州の歯科医療法などの法律を確認します。

たとえば州によっては、歯科衛生士が医療バスを購入し、オーナーとして歯科医師をパートナーに雇うことが可能なケースもあります。これは決して簡単な道のりではないでしょう。

しかしこのように、アメリカでは歯科衛生士がさまざまな可能性に挑戦し、プロとしての仕事の幅を広げていくことが可能なのです。

モバイルデンティストリーの規制

モバイルデンティストリーを行う際は、歯科医師による監督の規定だけでなく、その他の規則や規制も詳細に確認する必要があります。

歯科診療法はもちろん、保健省や医学委員会などのような、医療機関が定めるルールについても注意しなければなりません。

モバイルデンティストリーを行う場合、州への登録や手数料の支払い、各診療所での患者記録の保持などを要求される場合があります。

たとえばオレゴン州におけるモバイルデンティストリーでは、従来の歯科診療所と同じ規制が適用されます。一方でアーカンソー州の場合は、モバイルデンティストリーの許可証を取得し、料金の支払いや賠償責任保険の加入、アフターケアに関する手順書の作成、スロープやリフトによるバリアフリー対応など、さまざまな規制が求められます*1

歯科医師によるモバイルデンティストリー

歯科医療の需要は高いにも関わらず、アメリカの田舎の地域社会には歯科医療機関が一つもないところが少なくありません。

しかし2022年秋、アメリカでは「MOBILE Health Care Act」という新たな法律が成立しました。過疎地や貧困層で歯科医院がない地域には、医療バスの購入に州の補助金を使用できるようになるという内容です。

この法律により、歯科医師が行うモバイルデンティストリーは、さらに歯科医療の提供を拡大できるようになり、地方のコミュニティに大きな影響を与えることになりました。

ADA(米国歯科医師会)は、「国民の口腔の健康増進を目的とする組織として、モバイルデンティストリーが、十分な診療を受けていない地域や集団に診療を提供し、口腔衛生の公平性を促進する上で重要な役割を果たすことを認識しています」と述べています。

保健センターが助成金を最良の方法で使用し、十分なサービスを受けていない地域社会に働きかけることができるよう、柔軟性が拡大されます。

このように、モバイルデンティストリーは歯科衛生士の間だけでなく、歯科医療全体に大きく関わってきており、急速に成長している分野になりつつあります。

参考文献:
*1 American Mobile and Teledenstry Alliance

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#01 アメリカで普及中!デンタルセラピストとは
#02 アメリカにおける歯科衛生士の魅力とは
#03 アメリカの予防システム「プロフィラキシス(プロフィー)」とは
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#06 アメリカにおける睡眠時無呼吸症候群へのアプローチとは(後編)
#07 新しい歯科診療のスタイル「モバイルデンティストリー」って?(前編)
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