歯科衛生士向けおすすめ論文 No.29「手用スケーラーによるSRPは本当に必要?」

歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?

歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。

ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?

「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。

このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!

歯科衛生士向けおすすめ論文

手用スケーラーによるルートプレーニングの必要性を評価した論文

今回解説するのはこちらの論文です。

重度歯周炎患者の歯肉縁下において、超音波スケーラーによるデブライドメントと、手用スケーラーによるルートプレーニングを併用した臨床成績
『Journal of Peking University. Health sciences』

この論文は、中国の北京大学が研究発表したもの。北京大学は、世界大学ランキングでアジア地域トップの大学で、とても優秀なことが知られています。

今回は、超音波スケーラー単独でスケーリングした場合と、超音波+手用スケーラーでSRPを行った場合の治療結果を比較することで、手用スケーラーによるルートプレーニングの必要性を評価しています。

どんな方法で調べている?

今回の研究には、被験者として重度歯周炎の患者さん23人が参加しました。

歯肉縁上スケーリングを行った直後の口腔内の状態をベースラインとし、その後は口腔内を4ブロックに分けて、それぞれのブロックに以下の通り治療を行いました。

  1. 上下顎それぞれ1ブロック:超音波スケーラーによる歯肉縁下スケーリング+手用スケーラーによるルートプレーニング
  2. 残りの2ブロック:超音波スケーラーによる歯肉縁下スケーリングのみ

それぞれの治療は1週間間隔で行われ、2回の通院で完了しました。

評価項目としては、「プロービング値」「臨床的アタッチメントレベル」「出血指数」を、ベースライン時および治療後1・3・6ヶ月の時点で記録しました。

臨床的な評価項目

手用スケーラーを併用する方がより歯周ポケットは減少する!

ベースライン時と比較して、両グループともすべての評価項目において有意に改善がみられました。

中でも1・3・6ヶ月後のプロービング値は、超音波スケーラー単独の治療よりも、手用スケーラーを併用した治療の方が有意に減少したとのこと。また、1・3ヶ月後の臨床的アタッチメントレベルにおいても、同様の結果が得られたようです。

一方で6ヶ月後の臨床的アタッチメントレベルと、すべての期間の出血指数においては、有意差がないという結果がでました。

*有意という言葉については、前回の記事で説明しています。こちらをご覧ください!
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」

この研究に対する考察

今回の論文では、超音波スケーラー単独でスケーリングを行うよりも、手用スケーラーを併用する方がより歯周ポケットを減少させることができるという可能性が示されました。

しかしその一方で、6ヶ月後の臨床的アタッチメントレベルと、すべての期間における出血指数には有意差がないという結果がでました。

ここで注目したいポイントは、被験者が重度歯周炎の患者さんであったことです。

一般的に、スケーリングやルートプレーニングによって除去された口腔内細菌は、術後3ヶ月程度で元の繁殖力を取り戻してしまうということが広く知られています。そのため、歯周病のリスクが高い患者さんにおいては特に、3ヶ月ごとのメインテナンスまたはSPTが推奨されます。

今回の研究に参加した重度歯周炎の被験者においても、術後6ヶ月を経過した口腔内では、①・② 両グループともに口腔内細菌の活動性が上がっていると考えられます。

また出血指数においては、歯肉縁下だけでなく歯肉縁上のコントロール、すなわちセルフケアの状態によっても大きく左右される評価項目です。

このような理由から、術後6ヶ月の臨床的アタッチメントレベルと出血指数においては、両グループ間で有意差が出にくかった可能性があります。

もちろん歯肉炎や軽度の歯周炎をもつ患者さんにおいては、超音波スケーラーの単独使用でも十分に良好な状態を保てることもあるでしょう。

しかし重度歯周炎の患者さんにおいては、定期的なメインテナンスにおいても手用スケーラーを併用することでより良い結果が出せるのかもしれません。

歯根面や歯肉をできるだけ傷つけない、かつ効果的なSRPを行えるよう、自分自身の技術も磨いていきたいですね!

手用スケーラーによるルートプレーニング

***

毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。

自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです。

参考文献:Y Yan, X E Wang, Y L Zhan, L L Miao, Y Han, C R Zhang, Z G Yue, W J Hu, J X Hou. Clinical outcomes of ultrasonic subgingival debridement combined with manual root planing in severe periodontitis. Journal of Peking University. Health sciences. 2020 Feb 18;52(1):64-70.

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