歯科衛生士向けおすすめ論文 No.30「親子間の食具の共有は、子どものう蝕リスクにどれくらい影響する?」

歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?

歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。

ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?

「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。

このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!

歯科衛生士向けおすすめ論文

親から子への垂直感染について調べた論文

今回解説するのはこちらの論文です。

3歳児の垂直感染を予防する、保護者の行動とう蝕との関連
『Caries Research』

この論文は、2011年に東北大学から発表された論文で、口腔内細菌の垂直感染を防ぐ行動と3歳児のう蝕経験との関連について調べています。

今回は、保護者と子どもの間で食具を共有しないことや、口から口へ食事を与えないことが、子どものう蝕リスクを低くするかどうかを評価しています。

どんな方法で調べている?

今回の研究では、3歳児歯科検診と保護者へのアンケート結果をもとに、3,035人の子どものデータが分析されました。

先述した通り、今回は口腔内細菌の垂直感染を防ぐための行動として、以下の2つが子どものう蝕経験に影響するかを調べました。

  1. 保護者が子どもの食具を共有しないこと
  2. 保護者と子どもの間で口から口への食事を与えないこと

口腔内細菌の垂直感染を防ぐための行動

食具の共有は、う蝕リスクに影響がない?!

垂直感染の予防を行った保護者は、口腔衛生行動が良好である傾向があったものの、垂直感染を防ぐ行動と子どものう蝕経験との間に有意な関連性は示されませんでした

したがって、親子間で食具を共有しないことや、口から口へ食事を与えないことは、小児期のう蝕レベルを下げることに対して、効果的でなかったことを示唆しています。

*有意という言葉については、前回の記事で説明しています。こちらをご覧ください!
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」

この研究に対する考察

今回の論文では、う蝕リスクを回避するために、親子間で垂直感染を防止することは効果的でないと示されました。

この論文は、システマティックレビューなどの信頼性が高い研究ではないものの、被験者が3,035人もいる日本の研究であることから、日本の歯科医療従事者としてはおさえておきたい論文ではないかと考えます。

これまで、う蝕の病因論では S.mutans などの特定の細菌がう蝕を発生させる「特異的プラーク仮説」という説が支持されてきました。

そのため、う蝕病原菌をもつ親の口から、無菌状態に近い子どもの口に細菌が感染する機会が多いと、子どものう蝕リスクが高まってしまうといわれていました。

しかし近年では、頻繁に糖を摂取することによってプラーク内の細菌叢が変化し、歯面の脱灰およびう蝕を進行させる「生態学的プラーク仮説」が支持されるようになり、う蝕の発生や進行にはさまざまな細菌が関与していることが明らかになっています。

今回の論文は、この生態学的プラーク仮説を裏づける論文の一つともいえるのではないでしょうか。

一方で、「垂直感染の予防を行った保護者は、口腔衛生行動が良好である傾向があった」という結果がでていることから、「保護者の口腔衛生に対する意識が高いがゆえに、垂直感染を予防する行動を起こしている」こともうかがえます。

そのような意識の高い保護者の方に間違った情報を伝えないよう、患者さんに正しい情報を提供し続けられる歯科医療従事者でありたいですね。

歯科医療従事者

***

毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。

自分が行っている業務に自信をもつためにも、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです。

参考文献:S Wakaguri, J Aida, K Osaka, M Morita, Y Ando. Association between caregiver behaviours to prevent vertical transmission and dental caries in their 3-year-old children. Caries Research. 2011;45(3):281-6.

歯科衛生士向けおすすめ論文

No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」
No.2「ストレートVSアングル どっちの歯間ブラシを使うべき?」
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No.10「電動歯ブラシと手用歯ブラシどっちが有効?」
No.11「全顎 OR ブロックごと、どっちのSRPが有効?」
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No.13「効果が高いクロルヘキシジン含有洗口剤の濃度とは?」
No.14「新型コロナウイルスと喫煙の関係は?」
No.15「ゴムタイプの歯間ブラシに歯肉炎やプラークを減少させる効果はある?」
No.16「ヨーロッパの歯周病専門医や歯科衛生士が推奨するOHIとは?」
No.17「新型コロナウイルスにクロルヘキシジンやポピドンヨードの洗口は有効?」
No.18「スケーリング後の補綴物にバイオフィルムはつきやすくなる?」
No.19「キシリトールって本当にう蝕予防に効果的?」
No.20「キシリトール製品はガムじゃないと効果がない?」
No.21「アメリカの歯科衛生士が行うインプラントメインテナンスとは?」
No.22「プラスチックキュレットの効果的な使い方とは?」
No.23「PMTCで歯周病予防はできない?!」
No.24「染め出しはプラーク除去にどれくらい効果的?」
No.25「SRP前のクリーニングに効果はない?」
No.26「根面う蝕にもっとも効果的なフッ化物は?」
No.27「根管治療後の歯はどれくらいもつ?」
No.28「電動歯ブラシと歯間ブラシを長期的に使用した時の効果とは?」
No.29「手用スケーラーによるSRPは本当に必要?」
No.30「親子間の食具の共有は、子どものう蝕リスクにどれくらい影響する?」